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早逝の天才アーティストのキャリアを見つめ直す『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』全国公開中

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ライター:#BANGER!!! 編集部
早逝の天才アーティストのキャリアを見つめ直す『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』全国公開中
『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

ジョージ・マイケルは永遠に

英国出身の伝説的ミュージシャン、ジョージ・マイケル。音楽に疎いという人でも、彼のことを“まったく知らない”とは言えないだろう。今年もクリスマスシーズンにはワム!の名曲「ラスト・クリスマス」を日本中いたるところで耳にしたはずだし、テレビをつければ季節に関係なく「ケアレス・ウィスパー」が流れてくるからだ。

とはいえデヴィッド・ボウイやクイーンのフレディ・マーキュリーなど一回り上の世代で、数々の伝記やドキュメンタリー映画でも有名な英国のレジェンド級ミュージシャンと比較すると、とくに日本では知名度の点でわずかに劣るかもしれない。しかし、彼の類まれな才能に長年魅了され続けているファンは多く、音楽業界への貢献や慈善活動の側面から見ても世界屈指の存在と断言できる。そんな天才アーティストのキャリアを改めて見つめ直す映画『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』が、12月26日(金)より全国順次公開中だ。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

彼が敬愛したスティーヴィー・ワンダーの言葉から始まる本作は、ジョージ・マイケルこと本名ゲオルギス・キリアコス・パナイオトゥの足跡を改めて辿るドキュメンタリー。かつてワム!のマネージャーを務めたサイモン・ネイピア=ベルが監督を務めているからか、ワム!の相方アンドリュー・リッジリーは登場せず、コメントを寄せる面々も過去のドキュメンタリー作品よりもシブい人選となっている。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

搾取された若手時代、社会問題への関心

レコード会社やレーベル関係者のコメントは想像通りといった感じではあるものの、むしろジョージが業界によって作られた虚飾まみれのアイドルではなく、真の意味でのアーティストだったことを浮かび上がらせる。全身からあふれ出るスター性によって爆発的なスピードで成功を収めはしたが、根っこの部分は今で言う“インディーズ”ミュージシャンだった。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

ジョージとリッジリーはわずか18歳で世に出たが、初期の名曲の多くが10代の頃に書かれたものだなんて、いまだに信じられない。とはいえ同時に、レーベル側との契約トラブルでギャラが一切支払われなかったりと、年相応の“若手ミュージシャンあるある”もしっかり踏襲していたりするのだが。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

スター性はダダ漏れながら、決して浮き世離れはしていないところも活動初期のジョージの大きな魅力だった。ごく普通の出自ゆえの社会的良心を持ち合わせ、ときには政治・社会問題への言及もあった。それは彼がギリシャ系移民二世だったことも関係しているだろう。時はサッチャー政権の真っ只中、富める者を増長させる資本主義へのアンチテーゼをエンタメ業界のど真ん中にいながらポップに訴えかけた。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

ジョージは2000年代以降もイラク戦争、つまり息子ブッシュやトニー・ブレアを、奇抜なミュージックビデオと辛辣な歌詞で批判した。同じ政策や政権をディスっていても、たとえばアメリカのパンクバンドとは異なる見せ方をしていたのが興味深い。その一方でBBCなどの討論番組に出演し、イスラエル政府の侵略行為等に対してもはっきりと批判していた。そんな彼を、悪名高い新聞王が仕切る大手メディアは徹底的に攻撃する。

不公平な音楽業界への怒り、性的マイノリティとしての葛藤

1963年うまれのジョージは、存命ならば現在62歳。カルチャー・クラブのボーイ・ジョージやペット・ショップ・ボーイズ、スタイル・カウンシルのポール・ウェラー、ユーリズミックスのアニー・レノックスのほうがジョージより少し年上なので、つくづく早逝であったことが惜しまれる。ちなみにニルヴァーナの故カート・コバーンとはわずか4歳差だ。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

サウンド・エンジニアやプロデューサーが語る、ジョージの作詞作曲作業に関する証言。個人の才能を搾取することで成り立っているレコード業界に対する大きな怒り。HIV陽性と判明した恋人が床に伏せる中で出演した、同じくエイズで亡くなったフレディ・マーキュリーの追悼コンサートで見せた伝説的な、控えめに言っても完璧なパフォーマンス。まさに山あり谷ありなキャリアの中で、しかし致命的に沈むことはなく、常に第一線で輝き続けていた。

日本でも限定的に公開された『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』を観ている人は多くないかもしれないが、あの作品は生前にジョージ自身が関わった自伝的ドキュメンタリーだった。ゆえに音楽的な面でも充実した内容で、キャリアのハイライト的な映像も多々あり、往年のファンが満足できる仕上がりだったと言える。

しかし本作『栄光の輝きと心の闇』は第三者の視点で構成されているため、当時のVTR以外に彼自身の言葉はない。ファンであればあるほど顔をしかめたくなる部分もあるだろう。彼が苦しんでいるときに手を差し伸べなかった連中が何を言うのか、と。だがドキュメンタリーである以上、本人不在だからこそ言及できる部分もある。英国の名優スティーヴン・フライがジョージの寛大さを称して「真のアーティストだ」と振り返るエピソードなどは、その最たる例だ。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

「ずっと他の誰かになりたかった」

2023年のTVドキュメンタリー『George Michael: Outed(原題)』でも大きくフィーチャーされていた、ジャーナリストのジェフ・マクマレンによる某インタビュー番組の映像も印象的に使用される。マクマレンが開口一番“あなたはゲイですか?”と質問し、「アイ・ウォント・ユア・セックス」の歌詞を“陳腐だ”と批判する様子はいま見てもブン殴りたくなるほど腹立たしいが、ヒステリックなリアクションが欲しかったであろう番組側の目論見はジョージのウィットかつ真を突いた返答によって失敗に終わる。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

逆に言えば、こういう状況だったからあのときジョージはこうしたんだ、ああ言ったんだ……と隙間を埋めていくための映像集と割り切って観ることもできるだろう。セレブやスターに対して、ネット時代の今よりもさらに下世話で無遠慮だった時代。「他の誰かになりたいと思ったことはない」という若かりしジョージが、「ずっと他の誰かになりたかった」と吐露するに至る激動の数年を経て、多くを失い、最終的に何を得たのか。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

享年53。いつ引退してもよかった、業界ご意見番として気楽に余生を過ごしてもよかった、どんな形でもとにかく生きていてほしかった。そんなファンの身勝手な願いは、ついに届かなかった。すでにジョージ・マイケルというペルソナを葬り去った生身の彼は、心身ともに疲れ果てていたのかもしれないが……。

『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』はヒューマントラストシネマ有楽町、 Kino cinema 新宿ほか全国順次公開中

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『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』

1981年にアンドリュー・リッジリーとともにポップデュオ・ワム!を結成し、10代でデビューを果たしたジョージ・マイケル。「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」「ケアレス・ウィスパー」「ラスト・クリスマス」などの世界的ヒット曲を作詞作曲し、ソロシンガーとしてもアルバム『フェイス』が1988年度グラミー賞を受賞し、通算売上枚数は1億2500万枚以上を記録するなど大成功をおさめたジョージがいかにしてポップミュージック界の伝説となり、その光と影を生きたのか。

ワム!のマネジャーを務めたサイモン・ネイピア=ベル監督がスティーヴィー・ワンダーやスティーヴン・フライら40人以上の関係者へのインタビューを敢行。ジョージ自身が語る当時のインタビュー映像や写真をはじめとする貴重なアーカイブ資料や未公開映像も多数使用し、音楽性、恋愛、有名人として及びセクシャルマイノリティとしての精神的葛藤、匿名で行っていた慈善活動、薬物依存や所属レーベル会社との訴訟問題、メディアとの関係など、栄光と苦悩に満ちた彼の人生を時系列で辿る。

監督:サイモン・ネイピア=ベル

出演:ジョージ・マイケル(アーカイブ)、アンドリュー・リッジリー(アーカイブ)、スティーヴィー・ワンダー、スティーヴン・フライ、サナンダ・マイトレイヤ、ルーファス・ウェインライト、ディック・レイフィー

制作年: 2023