ディカプリオが「劇場で観るべき作品」と強調する理由とは?PTA最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』会見レポート
PTA監督最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』グローバル会見レポート
ポール・トーマス・アンダーソン。その名前を聞くだけで、映画ファンはテンションが上がるはず。ベルリン、カンヌ、ヴェネチアという世界三大映画祭のすべてで監督賞に輝いた、唯一のフィルムメーカー。確たる作家性を持つというより、作品ごとにバラエティ豊かなストーリー・表現を駆使し、映像、音楽、俳優の演技の最高のケミストリーを作り出してきた。
そんなポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)の最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が完成し、かつて以上の絶賛を集めている。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
アカデミー賞に向けた賞レースでも最重要作品の一角をなすとされる本作。公開を前に、PTAとメインキャストがグローバルのジャーナリストに向けた会見を開いたので、そのトークから作品の魅力に迫っていこう。
ディカプリオ「完璧ではないヒーローを演じるのは楽しい」
『ワン・バトル・アフター・アナザー』が長年の企画だったとのことだが、その真意についてPTAは次のように語る。
今回の取材で「20年もの間、この作品のことをあれこれ考えて、脚本を書いていた」と、ちょっと冗談めかして言ったのは事実です。一方で、ベニチオ・デル・トロの出演が決まって、彼と夕食を共にしながら、一晩で映画の中の最高のシーンを書き上げたりもしました。つまり、基盤のストーリー、キャラクターの感情プロセスは維持しながら、作品自体はつねに流動的に変化していったのです。
メイキングカット 『ワン・バトル・アフター・アナザー』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
キャストの中心にいるのは、レオナルド・ディカプリオ。彼が演じるボブは、<フレンチ75>という武力革命を目指す組織の一員で、ある事件をきっかけに幼い娘とともに身を隠して生活することになる。16年後、その娘が成長し、さらわれたことで、奪還すべく奮闘するのが、本作の“基盤”。組織の闘士だったボブが、今は見る影もなく、だらしない中年男になっている。
たしかに俳優としては、演じたくなるキャラクターだろう。ディカプリオは30年近く前、PTAの出世作である『ブギーナイツ』(1997年)の主演オファーを断ったことを後悔しており、今回は念願のタッグが実現したことになる。ボブ役のどこに惹かれて出演を決めたのか。
一言でいえば、ボブの“人間性”ですね。彼には大きな欠点もあり、予想外の選択に迫られます。高度なスパイ活動のテクを持ちながら、大事なパスワードをド忘れしていたりして、そんな完璧ではないヒーローを演じるのは楽しいと思いました。
ボブは『ビッグ・リボウスキ』(1998年)のジェフ・ブリッジスや、『狼たちの午後』(1975年)のアル・パチーノの役にリンクします。特に後者の、愛する人と再び一緒になりたい気持ちが、今回のボブと娘の関係に繋がるんです。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
ショーン・ペン「脚本の3ページ目くらいからニヤニヤ笑いが止まらなかった」
ボブと娘のウィラを執拗に追いかけるのが軍人のロックジョー。最初の登場シーンから、“変態”っぷりを炸裂させる強烈キャラということで、名優・怪優の名を欲しいままにしてきたショーン・ペンがハマリ役だ。PTA作品は、前作『リコリス・ピザ』(2021年)に続いて2度目の出演となる。役へのアプローチについてペンは次のように振り返る。
脚本を読み始め、3ページ目くらいからニヤニヤ笑いが止まりませんでした。途中で作品のトーンも変わりますが、それも理にかなったものだと感心したんです。ポールとの仕事は、(ザ・ビーチ・ボーイズの)ブライアン・ウィルソンと一緒に曲を作るようなもの。つまり大胆なチャレンジということ。彼が今、どんな楽器を必要としているのか。それを観察して、われわれは演技をするわけです。
パーティで自然に踊ってしまうダンスと同じで、「あの時の演技は?」と聞かれても、答えるのは難しい。でも今回は、脚本を読んだら自然と曲が聴こえてきて、それに合わせて踊ってみる感覚でした。現場でのポールの演出は、まるでその曲の音量を上下しているかのようだったんです。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
このショーン・ペンの音楽の話は“例え”ではあるが、もう一人、音楽にインスピレーションをもらったキャストがいる。ボブの妻、つまりウィラの母、ペルフィディア・ビバリーヒルズを演じたテヤナ・テイラーだ。
ボブと一緒に武力革命を実行するペルフィディアは、ロックジョーとも深い因縁を持ち、ある意味、本作のキーパーソン。出産寸前の肉体で銃をブッ放すなど、体当たりな見せ場も多い。ミュージシャンとしても有名なテイラーは、役へのアプローチを次のように説明する。
ポールと一緒にスペイン語の名曲「Perfidia」を聴きました。「最高にいい曲! 大好き」と思ったのは、そこで歌われる女性が、わがままで人の心を操るタイプながら、カッコよく感じられたから。私は本作のペルフィディアの行動に全面的に賛成できませんが、生き残りをかけて立ち上がり、しかも母親として犠牲を払う部分を「Perfidia」、およびポールとの対話で掴んでいきました。
もうひとつ重要だったのは、ペルフィディアが抱える産後の鬱病。これは他の作品ではあまり描かれない要素で、そこにポールの才気を感じましたね。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
『ワン・バトル・アフター・アナザー』
最愛の娘と平凡ながらも冴えない日々を過ごす元革命家のボブ(ディカプリオ)。突然、娘がさらわれ、生活が一変する。異常な執着心でボブを追い詰める変態軍人“ロックジョー”(ペン)。次から次へと襲いかかる刺客たちとの死闘の中、テンパりながらもボブに革命家時代の闘争心がよみがえっていく。ボブのピンチに現れる謎の空手道場の“センセイ”(デル・トロ)の手を借りて、元革命家として逃げ続けた生活を捨て、戦いに身を投じたボブと娘の運命の先にあるのは、絶望か、希望か、それとも――
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、チェイス・インフィニティ
| 制作年: | 2025 |
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2025年10月3日(金)より全国公開