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「加害者を“100%悪”と断じられる人はいない」観客を共犯者にする映画体験『殺人配信』濃厚解説&インタビュー

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「加害者を“100%悪”と断じられる人はいない」観客を共犯者にする映画体験『殺人配信』濃厚解説&インタビュー
チョ・ジャンホ監督、カン・ハヌル 『殺人配信』撮影メイキング © 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.
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登録者数や再生数、フォロワー数や「いいね」。配信者にとって、それらの数字はまさに生存の指標であり、自己の価値を裏付ける“通貨”だ。だがその欲望の行き着く先には、常に危うさが潜んでいる。9月26日(金)公開の『殺人配信』は、その危うさを映し出すスリラーだ。

主人公ウサン(カン・ハヌル)は、犯罪専門チャンネルを運営する人気ストリーマー。掲げられるのは「犯罪を暴く」という正義感あふれる看板だが、正義と承認欲求は互いの隠れ蓑として機能しあい、やがて境界を失っていく。社会的善意を口実にした自己顕示欲――この構造こそが、本作のテーマだ。

『殺人配信』© 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.

視聴者がつくる物語

物語が進むにつれ、ウサンは配信中に実際の殺人鬼を追跡することになる。だが観客にとって衝撃なのは、ただの追跡劇ではなく「視聴者の存在」が物語を加速させていく仕掛けだ。コメントや投げ銭は配信の方向性を変え、ライバル配信者の存在を引き合いに出して煽る。ファンの応援もアンチの罵声も、次の過激な一手を促す燃料になる。

映画の大半は“配信画面”として提示される。監督のチョ・ジャンホは、長尺カットや不安定なカメラワークを駆使し、「編集による安心感」を意図的に奪っている。リアルタイムで進むフォーマットは没入感を強めるだけでなく、「観ている自分もこの配信の一部なのではないか」という不穏な感覚を呼び起こす。

韓国の映画評を見ると「フォロワー数やサブスクライバー数がそのままキャラクターの精神的な圧力として作用している」と評しており、数値と人間性の危うい結びつきが明確に描かれているのは明らかだ。

『殺人配信』© 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.

観客=加害者?

物語の仕掛けはさらに過激だ。ウサンが追跡する殺人鬼は、ただの敵ではなく「配信を見ている視聴者」であることが明かされる。加害者であり、同時に観客でもある存在。犯人=視聴者=観客という不気味な等式が浮かび上がる瞬間、スクリーンのこちら側にいる私たちは、ただの傍観者ではいられなくなる。

「観客がスクリーンを見ているのか、スクリーンから見返されているのか分からなくなる倒錯感」、この感覚が恐ろしい。

『殺人配信』© 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.

現実と地続きの恐怖

こうしたテーマは、韓国社会の現実とも地続きだ。YouTuberが配信中に刺殺された事件や、大規模盗撮事件、未成年を巻き込む搾取配信の摘発。日本でも同様の事件があったが、いずれも「誰かの人生や尊厳を見世物にする構造」が視聴者の欲望に支えられていた。本作が投げかける問いは、スクリーンの外の社会にそのまま突き刺さる。

『殺人配信』© 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.

「ただ見ているだけでいいのか?」

『殺人配信』は、単なるデジタルスリラーではない。生配信的リアルの徹底的な再現が、観客をスクリーンに縛りつける。そして気づけば私たち自身が、そのリアリティを支える“コメント”のひとつ、“投げ銭”の一部になっている。

映画は冷酷に問いかける――「あなたはただ見ているだけでいいのか?」
その問いは、スクリーンの外で日常的に動画を再生し続ける私たちの指先に、そのまま重くのしかかる。

『殺人配信』は配信文化が抱える歪みを映し出すと同時に、観客自身をも問い詰める構造を持っていることが分かる。では、この仕掛けを緻密に設計したチョ・ジャンホ監督自身は、どのような思考から作品を立ち上げたのか。なぜ“配信”という形態をここまで徹底的に再現しようとしたのか。そして観客を「傍観者」ではなく「共犯者」として巻き込む演出意図はどこにあったのか。

ここからは監督本人へのインタビューを通じて、その創作の裏側を掘り下げていきたい。

『殺人配信』撮影メイキング © 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.

次ページ:ジャンホ監督が語る「配信の構造と視聴者への影響」
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『殺人配信』

国内登録者数No.1を誇る犯罪チャンネルのストリーマー、ウサン。広告料を独占できるのは1位のみというプラットフォーム「WAG」で、未解決の犯罪事件を分析し圧倒的な人気を得ていたが、ある配信をきっかけに一瞬でどん底へと転落する。彼は1位の座を取り戻そうと、巷を騒がす、女性を狙った連続殺人鬼をリアルタイムで追跡する配信を開始。次々と手がかりを追いながら、殺人犯の正体に迫っていく。しかし、犯人が自身の配信を視聴していることを知ったことから、ウサンの配信は予想外の展開へと発展していくー。

監督・脚本:チョ・ジャンホ
出演:カン・ハヌル ハ・ソユン カン・ハギョン ハ・ヒョンス

制作年: 2025