実話ならではのストイックなミッション描写が生むエモいドラマ
劇中では終始登場人物たちと緊張感を共有することになるため、序盤は時間が経つのが遅く感じるかもしれない。しかし任務のシークエンスに入って“酸素への不安”が立ち上がると、今度は急に時間経過が早くなる。「気をつけろ、でも急げ」という焦燥感、もう間に合わないのでは? という恐怖感……。もちろん映像だけでなく、慎重な呼吸音、くぐもった声、そして海底の究極の無音など、サウンド面でも閉塞感と恐怖を演出するあたりが意地悪、もとい見事だ。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
いよいよ中盤からは“酸素残量=タイムリミット”という要素が軸になり、さらに潜水士への無慈悲な現実、つまり「無酸素状態」が宣告される。実話ベースという前提があるため、観客は心の中で「おいおいウソだろ? 助かってくれ!」と叫び、心拍は早まり、もう観てられない……みたいな状態に。
しかし、それまではどこか長閑ですらあった船員と潜水士たちは、ピンチに陥った仲間の命を救うために一丸となる。なにしろ実話なのでアクション映画のような派手さはないが、フィクションならばモブの一人であろう船員が解決策を導き出すなど、予測不可能な驚きの展開も。そして超困難なダメ元のミッション描写、からのエンタメ作品としても正しく燃える激エモ展開に、映画館のシートが軋むほどの前のめり鑑賞を強いられるはずだ。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
鑑賞前のトイレ必須!ダレる瞬間ビタイチなしの緊迫サバイバル
クライマックスから終盤にかけては、デイブのマッチョボディやダンカンの経験豊富ぶりも伏線として効いてくる。――のだが、これはもしやドキュメンタリーなのでは? と感じるほどのリアリティあふれる海中描写に何度もびっくり。そのうえ、極限状態に陥った脳が人体に及ぼす“不思議”まで教えてくれるものだから、なんだかもう語彙を失うくらいマジでスゴい、ヤバい。
いかにもフィクションなお涙頂戴の気の利いたセリフもほとんどなく、全体的にかなりシブめな映画ではある。それにも関わらず、メインキャラクターだけでなく全ての登場人物の“感情の動き”を丁寧に見せてくるので、観客の感情もいちいち揺さぶられてしまう。とことん感情移入させられるのは優れた映画の条件であり、つまり退屈する瞬間がビタイチないということなので、鑑賞前には必ずトイレに行っておこう。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
潜水中の致命的な事故。その“結末”がどうであれ、「本当の体験」が感動を呼び起こし、じわりと涙を誘う。文字通り“息を呑んで”結末を目撃するべき、劇場の大スクリーン&大音響で体験すべき傑作だ。
『ラスト・ブレス』は9月26日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
『ラスト・ブレス』
潜水支援船のタロス号が北海でガス・パイプラインの補修を行うため、スコットランドのアバディーン港から出航した。ところがベテランのダンカン(ウディ・ハレルソン)、プロ意識の強いデイヴ(シム・リウ)、若手のクリス(フィン・コール)という3人の飽和潜水士が、水深91メートルの海底で作業を行っている最中、タロス号のコンピュータ・システムが異常をきたす非常事態が発生。制御不能となったタロス号が荒波に流されたことで、命綱が切れたクリスは深海に投げ出されてしまう。クリスの潜水服に装備された緊急ボンベの酸素は、わずか10分しかもたない。海底の潜水ベルにとどまったダンカンとデイヴ、タロス号の乗組員はあらゆる手を尽くしてクリスの救助を試みるが、それはあまりにも絶望的な時間との闘いだった……。
出演:ウディ・ハレルソン、シム・リウ、フィン・コール、クリフ・カーティス
監督:アレックス・パーキンソン 原作:ドキュメンタリー『ラスト・ブレス』(メットフィルム)
脚本:ミッチェル・ラフォーチュン、アレックス・パーキンソン&デヴィッド・ブルックス
| 制作年: | 2025 |
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2025年9月26日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー