「身体損壊グチャドロ激グロ」なのに癒し系?殺人鬼視点の“KILL散歩”ホラー『バイオレント・ネイチャー』の新しさ
グロさも規格外! 静かに狂った暴力描写の数々
もちろんスラッシャー映画に欠かせない“殺しの演出”にも独自のこだわりが伺える。マスクを被って以降の『13金』シリーズの殺害パターンをよりアグレッシブにしたような、思い切りの良い切り株系ゴア描写の数々。被害者を拷問したりじわじわ殺害するなどの“怨”を強く感じさせる演出は、いわゆる”記念日ホラー”に近い。
『バイオレント・ネイチャー』© 2023 ZYGOTE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED
なかでも最もグロテスクで悪趣味なのが、眺めの良い崖の上でヨガ中の女子が襲われるシーン。もちろん崖上から突き落とすなんてつまらないものではなく、その邪悪なアイデアに観客は頭を抱えるか爆笑するか、あるいは泣きたくなるかもしれない。低予算のはずだがゴアシーンはどれもリアルで、一つ一つに割く時間もかなり長め。身体損壊を固定カメラで見せるシーンなどは、悪名高い『アレックス』(2002年)の演出を思い出す意地の悪さだ。
『バイオレント・ネイチャー』© 2023 ZYGOTE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED
古典ホラーへの愛とアート映画の革新性
恐怖を煽る劇伴もなく、鳥のさえずりや森の木々などの環境音をBGMに繰り広げられる無慈悲な殺戮。『悪魔のいけにえ』(1974年)など往年のスラッシャー映画へのを愛をチラつかせつつ、チープゆえの悪趣味感ではない“本物のグロさ”への執念、そしてホラー映画そのものを解体・再構築するような革新性が光る。
『バイオレント・ネイチャー』© 2023 ZYGOTE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED
執拗な長回しや冗長な会話シーンなどは賛否の分かれるところかと思うが、“とにかくエグい暴力描写をサクサク見せろ”という観客への挑戦とも受け取れる攻めの姿勢は評価されるべきだろう。ちなみに海外版のBlu-rayにはかなり長尺のメイキング映像が収録されていて、監督のクリス・ナッシュほかスタッフの苦労が丸写しになっているという、思わず応援したくなってしまう作品でもある。
『バイオレント・ネイチャー』は9月19日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中