「黒澤明をリメイクするのは不可能」スパイク・リー&デンゼル・ワシントンが語る『天国と地獄 Highest 2 Lowest』
Apple Original Films『天国と地獄 Highest 2 Lowest』画像・映像提供 Apple
スパイク・リー&デンゼル・ワシントンにインタビュー!
かねてから黒澤明監督の大ファンを自称するスパイク・リーが、黒澤の傑作『天国と地獄』(1963年)をもとに、現代のニューヨークを舞台にして作り替えたのが、<Apple TV+>で9月5日から配信される『天国と地獄 Highest 2 Lowest』だ。
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“神の耳”を持つ音楽プロデューサーのデヴィッド・キングは、その天分を頼りに会社を立て直す計画を持つ。だがそんな矢先、「17歳の息子を誘拐したので身代金を用意しろ」という脅迫電話を受け取る。
じつは、犯人が息子と思ったのはキングのお抱えドライバーの息子だったことがわかるものの、犯人は脅迫を続ける。果たして他人の子のために身代金を払うべきなのか。払えば自分が生涯かけて築いてきた事業は水の泡となってしまう――。
Apple Original Films『天国と地獄 Highest 2 Lowest』画像・映像提供 Apple
プライドとモラル、傲慢さと誠実さの狭間で逡巡するキングに扮するのは、リーとは今回が19年ぶり5度目のタッグとなるデンゼル・ワシントン。さらにラッパーのエイサップ・ロッキーやイルフェネシュ・ハデラらが脇を固め、音楽のグルーヴに満ちたこの監督らしい、エキサイティングな仕上がりとなった。
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プライベートでも家族ぐるみの付き合いをする盟友ふたりが、本作のアプローチについて、黒澤監督に対する思い、さらにAIや名声といったテーマについて語ってくれた。
デンゼル「感動したりさせられたり、AIにそれができるのか?」
――スパイクさんに質問です。本作はあなたが尊敬する黒澤明監督の『天国と地獄』の「再解釈」で、舞台も時代もまったく異なります。あなたにとってブラックカルチャーの遺産をどのような側面で強調することが重要だと思われたのでしょうか。また、それは演出にどんな影響を与えましたか。
スパイク・リー(以下、スパイク):質問をありがとう。とくに黒人らしさを強調しようと思ったわけではないんだ。この映画のためにアフリカ系アメリカ人になるわけではなく、それがふだんの僕だから、選ぶ音楽にしても、舞台美術にしても、キャラクターにしても自然とそうなる。だから「黒人らしさ」のスウィッチを入れる必要はない。
それと同時に、僕は偉大なクロサワをとても尊敬しているし、彼がアメリカのエド・マクベインの小説「キングの身代金」を、あんな風に日本を舞台にして映画化したことに、とても感銘を受けている。アメリカから日本へ、そして今日、それがアメリカに戻って映画化されたことは、とても興味深いと思う。
――私の記憶が確かなら、映画のなかで「名声は唯一の通貨だ」というようなセリフが出てきたと思うのですが、あなた方にとってそれはどんな意味を持ちますか。
デンゼル・ワシントン(以下、デンゼル):僕らが生きている今日の世界は、フォロワーがどれだけいるか、名声がどれだけあるか、そして、それをどれだけ金に換算できるか、ってことが重要視される。もう昔とは同じではない、昔には戻れないということを感じる。
スパイク:そうだね。才能の価値とは何か、ということを考えさせられる。いまは才能よりもフォロワーや名声を優先するのか? 少なくとも今日のエンターテインメント業界のあり方において、それは大きな問題だ。
Apple Original Films『天国と地獄 Highest 2 Lowest』画像・映像提供 Apple
――本作にはAI(人工知能)の話題も出てきます。「マシーンが作る音楽は音楽であり得る」。でも、あなた方ご自身のお考えはどうなのでしょう? もちろん映画業界でもいまAIはシリアスな議題として考えられていますが、芸術におけるAIについて、どう思われますか。
スパイク:僕はテクノロジーに反対しているわけではない。でもAIには〈ソウル〉がない。人間には〈心〉がある。それを使って僕らは素晴らしいものを作りあげようとしている。映画業界のみならず、いまや大学などでも学生がAIを使って論文を書いたりしているけれど、それなら僕たちはいつ学ぶんだ? だから僕自身は反対だ。テクノロジーそのものではなく、芸術におけるAIに関してね。そこに僕は線を引きたい。
デンゼル:時間は進み、テクノロジーは進化する。でも重要なのは、我々にはソウルがあるということ。それで傷ついたりもするし、その痛みにもとづいて反応し、そこから何かを創造することができる。何かを感じ、感動したりさせられたりする。AIにそれができるのか? 僕らにはまだわからない。
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