韓国史上“最悪の政治裁判”を「ほぼ事実」に基づき描いた『大統領暗殺裁判 16日間の真実』監督インタビュー
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』チュ・チャンミン監督が語る
韓国現代史に題材を取った『大統領暗殺裁判 16日間の真実』が、8月22日(金)より日本で公開される。
本作のモチーフは1979年、朴正煕大統領が韓国中央情報部(KCIA)部長のキム・ジェギュに暗殺された事件の裁判だ。
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
逮捕されたキム部長の側近と、彼の弁護を引き受けた弁護士の実話にフィクションを交えた骨太のヒューマンストーリー。2023年末に亡くなったイ・ソンギュンの最後の公開作品ともなった。
そんな本作の日本公開に合わせ、チュ・チャンミン監督にオンラインで話を聞いた。
チュ・チャンミン監督
「家族との関係や家庭内の出来事は95%が事実」
――監督が韓国現代史を扱う映画を演出するのは初めてです。朴正煕大統領暗殺事件(10.26事件)そのものを描いた作品には『ユゴ 大統領有故』(イム・サンス監督、2005年)や『KCIA 南山の部長たち』(ウ・ミンホ監督、2020年)などがありますが、事件後の裁判をテーマに選んだ理由は何でしょうか。また、このテーマにどのようにアプローチしましたか。
10.26事件そのものは映画や小説で何度も扱われてきましたが、(本作でイ・ソンギュンが演じた)朴興柱(パク・フンジュ)について触れたものはほとんどありません。私は歴史そのものよりも人物にまつわる物語を描きたいと思っています。混乱に満ちた歴史的事件の中で個人がどのように犠牲になっていくのかを描こうと考え、この事件を選びました。
――チョ・ジョンソク演じるチョン・インフの主なモデルは太倫基(テ・ユンギ)弁護士、パク・テジュのモデルは朴興柱(パク・フンジュ)大佐ですが、実在の人物をモデルとすることで苦労したことはありますか。また、登場人物のキャラクターを造形する際、実在の人物の資料をどの程度反映させましたか。
映画の登場人物のモデルになった人々はほとんどが亡くなっているか高齢で、直接取材するのは難しい状況でした。そこで国会図書館などで資料調査を行い、遺族など当事者に関わる方々を訪ねて話を聞きました。本人に直接取材すればもっと詳細に表現できたでしょうが、それができなかったので、創作された部分もかなりあると思います。しかし、裁判や周りの人の記憶などはほぼ事実に基づいています。彼らの心の中までは分かりませんが、彼らが経験した事件の経過はほぼ事実だと考えて結構です。
メイキングカット『大統領暗殺裁判 16日間の真実』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
――パク・テジュの家族に対する愛情など、人間的な感情が現れるシーンはどの程度フィクションを交えたのでしょうか。
朴興柱の個人的な面は遺族のインタビューや手紙、記録を通じて最大限事実に近づけようと努力しました。家族との関係や家庭内の出来事は95%事実です。ただ、朴興柱には娘が2人、息子が1人いました。最初は同じ設定にしましたが、生まれたばかりの末の息子を撮影するのが大変で、「子どもは娘2人」と設定を変更しました
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「イ・ソンギュンは朴興柱という人物に憑依して演技していた」
――韓国の原題は『幸せの国』です。このタイトルに込めた意味を教えてください。
どんな国でも、多くの大衆は「幸せな国」をつくろうと努力していると思います。すでに「幸せな国」になった国がいくつあるかは分かりませんが、大韓民国も他の多くの国も「幸せの国」に向かう過程にあると考えています。1979年も苦しく困難な時代でありながらも、「幸せの国に」向かう過程だったと思っています。原題にはそういう意味を込めました。
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
――本作が遺作となったイ・ソンギュンについて伺います。本作の演技をどのように感じていらっしゃいますか。
ソンギュンさんは当初、朴興柱という人物を演じることにプレッシャーを感じていたようです。どう演じるべきか、この人物の内面はどうだったのかと相当悩んだと聞いています。ソンギュンさんの映画のスチールカットをご覧になってから、朴興柱の写真を探して比べてみてください。2人は90%以上のシンクロ率です。
ソンギュンさんはメークをして軍服を着てひげをつけた姿を鏡で見て、自信を持ったようです。ソンギュンさんと法廷内の朴興柱の記録写真を見ると、本当に似ています。それだけ朴興柱という人物に憑依して演技していたんだと思います。
メイキングカット『大統領暗殺裁判 16日間の真実』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
――キャスティングの経緯や撮影現場でのエピソードも教えていただけますか。
ソンギュンさんは、チョ・ジョンソクさんと共演したいという思いが強かったようです。ジョンソクさんのキャスティングが決まった後で、「良かった、チョさんと一緒に芝居をして彼に学ぼう」と私に言いました。もちろん私たちが起用したかったわけですが、ソンギュンさん自身もこの役に魅力を感じていたようです。現場では撮影の合間にみんなで集まって話をしたり、お酒を飲んだりもしましたが、兄貴分としての役割を果たしていたことが思い出されます。
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM & OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』
厄介な事件の裁判を多く担当する弁護士会のエースであるチョン・インフ(チョ・ジョンソク)は、大統領暗殺事件に巻き込まれた中央情報部(KCIA)部長の随行秘書官、パク・テジュ(イ・ソンギュン)の弁護を引き受ける。軍人であるがためにただ一人軍法裁判にかけられ、たった一度の判決で刑が確定する彼のために、公正な裁判を求めて戦うチョン・インフだったが、のちに軍事反乱を起こす巨大権力の中心である合同捜査団長チョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)によって裁判は不正に操られていた――。
監督・脚本:チュ・チャンミン(『王になった男』)
出演:チョ・ジョンソク(「賢い医師生活」)、イ・ソンギュン(『パラサイト 半地下の家族』)、ユ・ジェミョン(『劇映画 孤独のグルメ』、「梨泰院クラス」)
| 制作年: | 2024 |
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2025年8月22日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開