イ・ビョンホン「なんだか僕は引退するみたいですね(笑)」
BIFANでは毎年、一人の韓国スターにスポットライトを当てて特別展を行なっているが、今年のスターは、イ・ビョンホン。まさに韓国映画界の顔であり、“THE MASTER”と冠されるのも納得の演技力の高さと幅広さ、そしてカリスマ性で長年韓国映画界を牽引してきた。
初日のレッドカーペットではランニング・ポーズをして愛嬌を振りまき、開幕式にも登壇したビョンホン。2日目は、記者会見とメガトークに加えて現代百貨店での特別展テープカットに登場し、3日目にも舞台挨拶をするなど大活躍だった。
イ・ビョンホン( 第29回富川国際ファンタスティック映画祭) 撮影:石津文子
今回、数多くの出演映画の中から、『JSA』(2000年)、『バンジージャンプする』(2001年)、『甘い人生』(2005年) 、『夏物語』(2006年)、『悪魔を見た』(2010年)、『王になった男』(2012年)、『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)、『天命の城』(2017年)、『KCIA 南山の部長たち』(2019年)、『コンクリート・ユートピア』(2023年)の10本を本人がセレクト。「個人的に好きな映画、自分の映画人生において意味のある作品を選びました」と理由を明かした。
また、パク・チャヌク監督やキム・ジウン監督らのコメントで振り返る特別映像も紹介され、「こんなにしていただいて、なんだか僕は引退するみたいですね(笑)」と笑っていた。
イ・ビョンホン( 第29回富川国際ファンタスティック映画祭) 撮影:石津文子
アニメ声優にも挑戦!でも…「パパは悪役しかやらないの?」
イ・ビョンホンはNetflixの『イカゲーム』シリーズをはじめ、出演作の多くが大人向け(韓国では視聴年齢制限が厳しく設定されている)。
10歳の長男が観られる映画は限られるため、息子が見られる作品に出たいと思い、同じくNetflixのアニメ『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」(2025年)に鬼魔役で声の出演をしたが、息子は「パパは悪役しかやらないの?」と言われてしまったそう。今回の特別展のタイトルにもなった『MASTER/マスター』(2016年)を特集に選んでいないのは、もしや極悪人役だったからだろうか?
また、“人生で最もファンタスティックな瞬間”を聞かれると、ブルース・ウィリスと共演した『REDリターンズ』(2013年)のLAプレミアを挙げた。「亡き父親の写真を映画で使ったのですが、プレミアでエンドロールに父親の名前が入っているのを見た瞬間、涙が出ました。父は小さな会社を営んでいましたがハリウッド映画が大好きで、本当は映画の仕事をしたかったはず。監督たちの粋な計らいに感激しました」と、感慨深い表情を見せた。
イ・ビョンホン( 第29回富川国際ファンタスティック映画祭) 撮影:石津文子
ほかにもチョ・インソンが、リュ・スンワン監督とカン・ヘジョンPD夫妻の制作会社<R&K>の特集で登壇。インソンは『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021年)などでスンワン監督作に3本も出ており、「あと2本出たら社員に昇格」と監督に言われ、喜んでいた。
カン・ヘジョンPD、チョ・インソン、リュ・スンワン監督( 第29回富川国際ファンタスティック映画祭)
多くのイベントが行われた<BIFAN>では、メイン会場である市庁舎の庭でライブ演奏やクラフトビールフェスも開かれていて、市民参加型の映画祭として大きな盛り上がりを見せていた。
一方、前政権による文化予算削減の影響もあり、上映本数が昨年より15%ほど少なかったが(それでも221本)、AIに力を入れており、<BIFAN+>としてAIによる映像の未来を考えるセミナーやワークショップ、上映も行われた。未来型映画祭として、また釜山映画祭との差別化に、大きく舵を切った印象だ。
取材・文・写真:石津文子