「ハイテク爆弾」をデザインしたのは、あの名監督!
『シン・ゴジラ』など樋口監督と長年組んでいるVFXスーパーバイザーの佐藤敦紀氏によれば、「ミニチュアによるクライマックスの爆破シーンはセットの準備を含めて1ヶ月くらい、撮影だけでも10日ほどかかりました。それ以前に、車体をどう動かしていくのか、という試算をコンピューターでしてラフを作って、組み立てていくのですが、そこを入れると1年かかっているんです」と、準備に大変な時間がかかっている。
撮影メイキング:Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中
でもミニチュアの爆破場面を、役者さんに見てもらってから演じてもらうことができた。これはとても喜んでもらえて、やった甲斐がありました。(佐藤)
実はミニチュアと言ってはいるが、ここで言っているのは実際の車両の6分の1サイズのもの。メイキング映像も公開されているが、かなり大きいのだ。これを実際に走らせて、衝突や爆破シーンなどを撮るわけだから、一発勝負でもある。
コンポジティング・スーパーバイザーの白石哲也氏(Spade & Co.)は、ミニチュアで撮影されたものをベースにCGを加えていく。
実写で撮影した特撮と、コンピューターによる映像がミックスしていくんですけども、課題が2つありました。樋口監督もおっしゃっていましたが、ミニチュアを使った特撮では迫力を出すためにスローモーションのような撮影をしている。でも、そこで脱線して突き進んでいく新幹線のスピード感を出すためにCGを使っていくというのは、とても難しかった。
2つ目の課題は、その質感の違い。ミニチュアは実際に照明を当てて撮影しています。CGの空間でそれを再現するんですが、ミニチュアサイズのライティングというのは現実とは違うわけです。実物のリアルなサイズ感でCGでは調整していくんですが、その微妙な調整が意外と大変でした。(白石)
なお印象的なハイテク爆弾のデザインをしたのは、『シン・ゴジラ』『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明。アニメーター時代からメカデザインの名手として知られた庵野らしさが感じられるので、お見逃しなく。
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「草彅剛は、高倉健になる男」
観ている間は暴走する新幹線の迫力と、草彅たちの演技に気圧されて気づかなかったが、よくよく考えるとあの犯人がどうやって仕掛けたのだろう? と、ちょっと謎が残る。しかし、草彅剛が犯人と対峙する際の迫真の演技は、これぞ現代日本を代表する俳優だと唸らされた。「草彅剛は高倉健になる男」と言ったのは演出家つかこうへいだが、感情を抑えに抑えて最後に爆発するという高倉健型の演技を、今回の草彅も見せてくれる。
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余談だが、昭和版は高倉を初め、宇津井健、千葉真一(運転士・青木)、山本圭(元過激派・古賀)ら主要キャストがもう皆、亡くなっていることに50年の月日を感じる。なお、同年に公開された『ジョーズ』のリチャード・ドレイファスはまだ健在だ。
当時大流行したパニック映画の金字塔でもあると同時に、ある種のルサンチマン(遺恨、復讐感情)を感じさせた昭和版。犯人は日本の高度成長から取り残された男たちであり、暴走する新幹線はある意味で権威の象徴でもあった。国鉄=日本国有鉄道だったのだから。当時の国鉄が協力しなかったのもよくわかる。あの頃、東京では本当に過激派による爆破事件が相次いでいたので、荒唐無稽とは言い切れないものがあったのだ。
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一方、令和版は観客側の背景も描かれており、SNSで配信して身代金を集めようというアイディアなどまさに現代的で、新幹線は個人の欲望が暴走する社会の象徴とも思える。そしてその事件を解決するのは普段、縁の下の力持ちとして人知れず活躍している人々であり、鉄道マンたちはその象徴だ。たとえ顔を見たとしても、乗務員の名前を覚えている人は少ないだろう。その象徴である高市を演じた草彅剛はある意味で無名性を保ち続けるスターであり、彼にしか演じられなかったと言える。
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ちなみに保線担当の新庄を演じた田中要次は、俳優になる前は実際に国鉄、そしてJR東海で保線員をしていたというホンモノだ。樋口真嗣作品は、『シン・ゴジラ』もそうだが無名の者たちが魔物と対峙して戦う群像劇が真骨頂だということがよくわかる。是非とも令和版、昭和版ともに鑑賞して味わってもらいたい。
Netflix映画『新幹線大爆破』発車記念イベント(Photo :Ayako Ishizu)
取材・文:石津文子
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