ザラついた白昼夢のような、すれ違い逃避行
冷静に見ればカリーナには何らかの闇があると想像すべきだろう。でもザラ・ドヴィンガー監督は、レトロなキャラクター造形や音楽で時代設定も時間軸も曖昧にし、白昼夢のような逃避行を少女ルーの目線で描き続ける。しかし、カリーナは愛に飢えた娘の自動補正機能でもカバーできないほど無軌道で、ルーの表情もこわばり始める。
『KIDDO キドー』©2023 STUDIO RUBA
やることなすことガチャガチャなカリーナからたびたび(どこかで聞いたような)名言が飛び出し、そのたびにハッとさせられたりもする。しかし、何かと達観したような憧れのママ像と、戸惑いながらも付き従う幼い娘という構図は次第に崩れ去る。それでも、すぐさま現実を突きつけ取捨選択を迫るような、説教くさい社会派ドラマ的セオリーには陥らない。
『KIDDO キドー』©2023 STUDIO RUBA
カリーナは自分が母親から与えられなかったものを、理想のママを演じることで娘に与えようとしているのだろうか。かたや無茶な逃避行の中で急速に成長を促され、全力で母のテンションに合わせつつ現実と折り合いをつけようと密かに葛藤するルー。最後に彼女が叫ぶ切実な希望は痛ましくもあり、旅路を見守ってきた観客に安堵を与えもする。
『KIDDO キドー』©2023 STUDIO RUBA
米インディー映画のバイブスもありつつ、外側からの目線がなければ醸し出せないであろうザラッと怪しい質感が新鮮。スクリーンでこそ映えるタイプの映画なので、ぜひお近くの劇場で観てほしい。
『KIDDO キドー』は2025年4月18日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、京都シネマ、テアトル梅田ほか全国順次公開
『KIDDO キドー』
ママがやって来る!児童養護施設で暮らす11歳の少女ルーのもとに、離れ離れだった母親のカリーナから突然連絡が入る。自称ハリウッドスターのカリーナは、再会を喜ぶルーを勝手に施設から連れ出し、「ポーランドのおばあちゃんのところへ行く」と告げる。カリーナにはルーとずっと一緒にいるための、ある計画があったのだ。「人生はゼロか100かよ、キドー(お嬢ちゃん)」。ルーは破天荒な言動を見せるカリーナに戸惑いながらも、母親と一緒にいたいという思いでついていくのだが……。
監督:ザラ・ドヴィンガー
出演:ローザ・ファン・レーウェン、フリーダ・バーンハード、マクシミリアン・ルドニツキ、リディア・サドウカ ほか
制作年: | 2023 |
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2025年4月18日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、京都シネマ、テアトル梅田ほか全国順次公開