“メタル”を聴いて“神”の下で励む“カンフー”という闇鍋
本作の舞台となるのは、ポップカルチャーが禁じられたソ連占領下のエストニア。なにかと不自由を強いられる環境と思われるが、主人公ラファエルは謎の三人衆に感化されたのか、自らの道を信じ突き進み周囲の人々を問答無用で巻き込んでいく。演じるウルセル・ティルクはケイレブ・ランドリー・ジョーンズを少し汚したみたいな風貌で、目的に向かって突っ走るズッコケ主人公としてのキャラ造形もバッチリだ。
ブラック・サバスを爆音で聴きながらヌンチャクを振り回すラファエルの教科書のようなボンクラぶりは、ジャンル映画好きからすると微笑ましくて仕方ないだろうし、ある意味“なろう系”の主人公のようでもある。なお、ジャッキー映画やタランティーノ映画のオマージュもあるにはあるのだが、あまりにも演出が独特すぎるものだから、そのへんはどうでもよくなってくる。
カトリックが大半を占めるエストニアで神を信じながらもサバスを聴き、カンフーの頂を追い求める革ジャン&ロン毛のラファエル。しかし、偶然立ち寄った正教会の修道院で<神の奇跡>に立ち会ったことで認められ、そこで厳しい(?)修行を積むことになり――。
支離滅裂、だけどポップ&コミカルな<大願成就>ムービー
海外メディアでは「ジャッキー・チェン meets ベニー・ヒル(※英コメディアン)」などと評されている本作。ベニー・ヒルの部分を日本人にわかりやすく言い換えれば、「志村けんのだいじょうぶだぁ」といったところか。とにかく正教会の僧侶がアクロバティックなカンフーを披露する絵面はかなりシュールなのだが、不思議と既視感があるような気がする。……そうだ、対戦格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」の怪僧ラスプーチンだ! だから何だという話ではあるが、実際劇中には格ゲーを意識したような演出もある。
宗教、カンフー、ヘヴィーメタル――ラファエルが愛するのは、かつてソ連で禁止されていたものばかり。つまり彼は反体制の塊のような存在であり、それが劇中に散りばめられたアイコンに込められているメッセージでもある(と思う)。ともあれ、中盤以降はザクザクとしたギターサウンドとともにカンフー要素=ケレン味もマシマシとなり、思わず頭を前後に振りたくなるはずだ。
そんな劇中曲を手掛けているのが、goatの日野浩志郎やDMBQの増子真二という重ねての衝撃。音楽制作の裏話は日野氏のインタビューを参照していただければと思うが、唯一無二の世界観にかなり貢献しているのは間違いなく、彼らによる音楽がなければ全く印象の異なる作品になっていたかもしれない。
『エストニアの聖なるカンフーマスター』は2024年10月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『エストニアの聖なるカンフーマスター』
ラジカセでメタルを鳴らしながら宙を舞う、革ジャン姿のカンフーの達人たちが国境を襲撃。わずか3人の達人によって警備隊は壊滅状態に陥ったが、青年ラファエルは奇跡的に生還を果たす。
天啓を受けたラファエルは、禁じられたカルチャーであるブラック・サバスの音楽やカンフーに熱狂するようになるが、見様見真似のカンフーでは気になった女性を射止めることもできない。
冴えない日々を送るラファエルは、ある時偶然通りかかった山奥の修道院で見たことのないカンフーを扱う僧侶たちと遭遇する。すぐに弟子入りを志願するのだが。
制作年: | 2023 |
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2024年10月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開