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役所広司×ヴィム・ヴェンダースが“現在の東京”描く『PERFECT DAYS』 小津安二郎『東京物語』とつながる日常劇

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ライター:#石津文子
役所広司×ヴィム・ヴェンダースが“現在の東京”描く『PERFECT DAYS』 小津安二郎『東京物語』とつながる日常劇
『PERFECT DAYS』© 2023 MASTER MIND Ltd.
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役所広司の顔と姿、そして動きを見る映画

面白いのは、平山は自宅では食事をしない。眠るか、読書か、音楽を聴くだけの休息の場だ。そこはいわば彼岸であり、あの世なのではないかという気がする。彼は毎朝、蘇生して川を渡って渋谷へ、そして浅草へやって来るのではないか。ハレとケというか。

もしくは平山は『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツのように、元・天使なのかもしれない。隅田川を渡るというのは、東京の東側の人間(私も足立区の隅田川と荒川の中洲で育った)にとって、どこかほんのわずかに覚悟のいるものだ。押上の銭湯で身を清めた後、平山は毎日、自転車に乗って隅田川を渡り、浅草へと向かう。彼はそこで食事をし酒を飲み、休日には古書店やスナックに行く。ヴェンダースがそこを意識したかはわからないのだが、自転車で隅田川を渡るのはどこか儀式のようにも見える。

『PERFECT DAYS』© 2023 MASTER MIND Ltd.

そして、淡々とした日常にもう一人、闖入者が現れる。三浦友和が演じる訳ありげな紳士だ。役所広司の素晴らしさについてはカンヌの男優賞を受賞したときに散々書いたが、三浦友和もいいのだ。全く作ったところがないのに、どこか平山を圧倒するものがある。三浦友和と役所広司が隅田川沿いで影踏みをするシーンの美しさよ。全く違う色気を二人が発しているが、これもハレとケかもしれない。非日常と日常。二人の関係性については映画を観てもらうとして、川岸で影を踏みながら二人は止まることのない時間の尊さを感じる。それにしても本当に国の宝だなあ、役所さんと友和さん。眼福だ。

『PERFECT DAYS』© 2023 MASTER MIND Ltd.

この映画は設定やストーリーよりも、役所広司の顔と姿、そして動きを見るもので、それこそが完璧な日々の象徴なのだろう。クライマックスにニーナ・シモンの「Feeling Good」が流れる中、平山が朝日を浴びながら見せる表情。2分強の長回しで、役所広司の顔がひたすら映る。平山の心に去来するものは何なのかわからないものの、生きることの喜びと悲しみを凝縮したような表情を見せる。また新しい1日が始まる。同じようで二度と来ない日。役所さんって、なんて良い顔をしているんだろう。そう思いながら、満足な気持ちで劇場を後にすることができるはずだ。

『PERFECT DAYS』© 2023 MASTER MIND Ltd.

この映画は、渋谷区の公共トイレを斬新なデザインで改修した日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環として、当初は短編として企画されていたが、趣旨に賛同したヴェンダースが長編にした。いわばアート・プロジェクトの一環だったため、採算を度外視して作られたのが成功の源だと思うが、おそらく日本の観客だけが気づく商業っぽさが若干ある。缶コーヒーとか、ユニクロの服とか。もちろん他の映画でもいくらでもタイアップはあるし悪いことではないのだが、素晴らしく静謐な映画だけについ目に留まってしまう。でも同時に、浅草地下商店街にある焼きそば屋、福ちゃんも登場しているので、そこは嬉しいところだ。久しぶりに寄ってみようかな。いつまでもあるものなんて、何もないんだから。

文:石津文子

『PERFECT DAYS』は2023年12月22日(金)より全国公開

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『PERFECT DAYS』

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。
その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。
その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。

監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース 高崎卓馬

出演:役所広司
   柄本時生 中野有紗 アオイヤマダ
   麻生祐未 石川さゆり
   田中泯 三浦友和

制作年: 2023