なぜジャッキー・チェンは『ラッシュアワー』が不満だったのか？ いま観ても最高に楽しい大ヒットアクションの製作ヒストリー

ついに米国に進出したジャッキー、膨大なギャラを手にしたタッカー

監督のブレット・ラトナーは1969年フロリダ生まれ。ニューヨーク大学で映画を学び、ミュージック・ビデオの監督から映画界に進出し、クリス・タッカーの初主演作『ランナウェイ』（1997年）で長編監督デビュー。続く『ラッシュアワー』を大ヒットさせ、シリーズをすべて監督して“マネーメイキング監督”の列に加わった。近年では、主にプロデューサーとしてレオナルド・ディカプリオにアカデミー主演男優賞をもたらした『レヴェナント：蘇えりし者』（2015年）、伝説のカントリー歌手ハンク・ウィリアムズをトム・ヒドルストンが演じた『アイ・ソー・ザ・ライト』（2015年）などの製作を手がけている。

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— /Film (@slashfilm) June 1, 2018

主演のジャッキー・チェンは1954年香港生まれ。10歳のときに京劇の学校へ預けられ、同窓のサモ・ハン・キンポーやユン・ピョウらと厳しい訓練を受けて育ち、やがて彼らと共に映画界に進出、ブルース・リーの出現で一気に人気ジャンルとなった香港カンフー映画のスターになっていく。彼らの伝説的な少年時代は、アレックス・ロウが『七小福』（1988年）という映画にしているし、ジャッキーの複雑な生い立ちは、メイベル・チャンのドキュメンタリー『失われた龍の系譜　トレース・オブ・ア・ドラゴン』（2003年）に詳しい。

Traces of a Dragon is a somewhat unconventional but still good look at the life of Jackie Chan http://t.co/TseR5NJHYc pic.twitter.com/hgvWcL3Owe

— Hong Kong Film Net (@hkfilmnet) September 6, 2013

やがてハリウッドにも進出したジャッキーはアジアというより、世界を代表するアクション・スターとなり、2016年にはアカデミー名誉賞を授与された。ジャッキーの全盛期に作られた『プロジェクトA』（1983年）や『ポリス・ストーリー／香港国際警察』（1985年）を超える、極限まで体を張ったアクション映画は二度と現れないだろう。

『ラッシュアワー』©MCMXCVII New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.

共演のクリス・タッカーは1972年ジョージア州アトランタ生まれ。高校卒業後、ショービズ界で働くべくハリウッドに出て、スタンダップ・コメディアンとして舞台に立った。1994年から映画界に進出し、1997年に『フィフス・エレメント』、『ランナウェイ』、『ジャッキー・ブラウン』の3本に出演。翌1998年に『ラッシュアワー』が大ヒットとなり、シリーズ3作目の『ラッシュアワー3』（2007年）では、当時ハリウッド最高の2500万ドル（当時は1ドル：124円）の出演料をとるまでになった。

『ラッシュアワー』©MCMXCVII New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.

単身ハリウッドに乗り込んだことがよく分かる少し薄味のアクション

さて、『ラッシュアワー』にジャッキー・チェンが不満だったのは、他のジャッキー映画に比べてアクションが物足りなかった点にある。骨の髄からエンターテイナーであるジャッキーは、危険なスタントを次々に考えだし、自ら挑んでいった。それを可能にしたのは、アクションに慣れた近しいスタッフと相手役がいたからだ。

『ラッシュアワー』©MCMXCVII New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.

ところが『ラッシュアワー』は、ハン領事役のツィ・マーもサン役のケン・レオンも香港の俳優ではなく中国系アメリカ人だし、その他のキャストもすべてアメリカ人（グリフィン警視長役のトム・ウィルキンソンは英国人だが）で、ジャッキーが文字通り単身ハリウッドに渡って客演した映画であることがわかる。ゆえに、いつもの体を張ったアクションではなく、チェイスや銃撃戦といったハリウッド式のアクションが多めになった感は否めない。

『ラッシュアワー』©MCMXCVII New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.

それでも、自分のスタント・チームを起用した福州飯店での椅子を使ったアクションや、中国博覧会での倒れる壺を使ったアクションは、コミカルでキレがあり、さすがジャッキーと思わせる。ラストの見せ場も、『ポリス・ストーリー／香港国際警察』で似たようなスタントがあったなとファンならば思うけれど、ジャッキー映画を見たことのないアメリカやヨーロッパの観客には驚きだったろう。ジャッキー映画に『ビバリーヒルズ・コップ』のテイストを掛け合わせた、結果的にはなかなか楽しめるアクション映画である。

文：齋藤敦子

『ラッシュアワー』シリーズ3作はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ラッシュアワー　イッキ観！」「特集：24時間　ポリスアクション」で2023年10月放送