おわかりいただけただろうか…?『トンソン荘事件の記録』
そして、悪夢をそのまま映画化したような韓国ホラーが『トンソン荘事件の記録』。ファウンド・フッテージとPoVを組み合わせた「ほんとにあった呪いの映画」といったところだ。
冒頭からリアリティあふれる映像に思い切り殴られる。VHS画質でスクリーンに映し出されるのは、定点カメラの映像。ベッドが置かれた部屋で男が女をおもむろに刺殺するスナッフビデオのような殺人が展開。そして男の背後の鏡には謎の少年が映り込む。まさに
「おわかりいただけただろうか?」
である。様々な心霊ビデオシリーズが行っているように『トンソン荘事件の記録』も、ビデオに映り込んだ”霊”と思われる少年の影を“心霊ビデオ取材班”が追いかけ、殺人事件のあらましを紐解いていく。いや、紐解こうと試みる。“取材班”に紐解くことはできないからだ。
『トンソン荘事件の記録』は、ファウンド・フッテージを調査する人々のファウンド・フッテージである。それ故に本作の登場人物たちは真相にたどり着けない。たどり着けたらファウンド・フッテージにならないからだ。つまり、真相にたどり着くことができるのは我々観客のみ。“取材班”が禁忌に触れ、霊障に蹂躙され、気が触れていく様をじっくりと観察し、「トンソン荘」の事件はなぜ起きたのか? 少年は誰なのか? を推察する。それが『トンソン荘事件の記録』なのだ。
正直怖い、怖すぎる。
本作を普通のファウンド・フッテージ/PoVの枠に収まることのない、恐ろしい映画にしている“ポイント”がある。それは唐突にPoVスタイルを捨てることだ。それまで主観視点であったのが、シームレスに劇映画へと変化し、そして再び主観視点に戻る。
フィクションとノンフィクションの境目をフラフラと行き来する映像。この手法により、ノンフィクション部分に奇妙な現実感が追加される。そして、現実感が増したところで“とある”映像が紛れ込む。このとき観客の恐怖は最高潮に達するのだ。
筆者は「え?」と声を出すと共に、鳥肌がゾワーーーーーーッと立った。正直怖い、怖すぎる。映画を観ていて、こんなに怖い思いをしたのは初めてかもしれない。
『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズのような心霊ビデオ好き、『呪詛』のような雁字搦めの呪いが好きなホラーファンは必見だ。
――地域の気候的なものもあろうが、アジアの“湿気”はオカルトと相性が良い。ハリウッド映画を否定するつもりはさらさら無いが、この湿気……もはや瘴気とも言える禍々しさをふんだんに生かした作品の登場をこれからも期待すべく、まずはこの2作をじっくりと楽しんで欲しい。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『オクス駅お化け』は2023年10月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
『トンソン荘事件の記録』は2023年10月27日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国公開
「特集:今観たい!傑作アジア映画」はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年11月放送