エイジズムに対して声をあげ始めたハリウッド女優たち
近年、若いころに活躍していたのに次第に役がもらえなくなった女優たちが、ハリウッドの内実についてインタビューなどで次々と声をあげ始めている。
『クレイジー・ハート』(2009年)でアカデミー賞主演女優賞に、脚本・監督を務めた『ロスト・ドーター』(2021年)で同賞3部門にノミネートされたマギー・ギレンホールは現在45歳だが、8年ほど前に「55歳の俳優の相手役としては37歳では歳を取りすぎている」と言われて役を断られたことがあったと告白している。
Amazon Prime Videoで配信された『愛すべき夫婦の秘密』(2021年)で、TVシリーズ『アイ・ラブ・ルーシー』(1951~1957年)などで知られるルシル・ボール役を演じたニコール・キッドマンは、劇中でルシルが「あなたは39歳。もう終わりだ」といわれるシーンがあったことに言及しつつ、「自分にも似たような経験があるけれど、状況は間違いなく変わってきている」と述べている。
ヨーロッパでは、『二十四時間の情事』(1959年)のエマニエル・リヴァが85歳の時にジャン=ルイ・トランテイニャンとともに主演した『愛、アムール』(2012年)、『愛の嵐』(1973年)のシャーロット・ランプリングが69歳の時に主演した『さざなみ』(2015年)のように、齢を重ねた女優が自然な形で登場する映画も珍しくない。
しかし、それでも“エイジズム”は業界の病根としてあるようで、最近、エマ・トンプソンら100名を超えるイギリスの俳優たちが、女優のみをターゲットにした“エイジズム”を改善し、45歳以上の俳優の男女平等な形でのレプレゼンテーションの実現を呼び掛けるオープンレターを公にした。
Emma Thompson calls out Hollywood's 'insane' sexist ageism + urges women to embrace feminism ✊ http://t.co/gaQsl4uyRk pic.twitter.com/qknn82wuHo
— i-D (@i_D) September 6, 2015
カレン・アレンの魅力が詰まった『スターマン/愛・宇宙はるかに』
さて、冒頭のカレン・アレンの話題に戻ろう。彼女は、筆者にとってもジョン・カーペンター監督の『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984年)のヒロインを演じた大好きな女優のひとりだ。
同作品はカーペンター監督作品の中でも特にハートウォーミングなファンタジーで、若くして最愛の夫を亡くした失意のヒロインのもとに、宇宙探査機ボイジャー2号に搭載されていた地球からの平和のメッセージに応えて来訪した異星人が逃れこみ、亡くなった夫スコットの遺品として置かれていた毛髪からDNA解析して、そのクローン=スコットの姿となって現れる、という物語。
……はじめはあまりのことに動揺するものの、やがてその心優しい異星人のことを、亡き夫同様に愛し始めてしまう、という女優にとって一生に一度巡り合うことができるかどうかというくらいの、素敵な役柄だった。
その彼女が、30歳の時に演じた『レイダース/失われた聖櫃』のヒロイン役を、57歳の時の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの伝説』に続いて、70歳になっても『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で演じる機会を持てたことの意味――。それは、第1作目から同シリーズを見続けているファンや、カレン・アレンという一人の女優にとって嬉しい出来事であったのみならず、ハリウッドの映画産業界が“エイジズム”を改善して、今後、ヨーロッパ映画のように成熟した女性たちを描く映画を作っていくことができるのかどうかの、ひとつの重要な座標軸を示し得たのかもしれない。
文:谷川建司
『スターマン/愛・宇宙はるかに』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月放送
『スターマン/愛・宇宙はるかに』
愛する夫を事故で失ったジェニー。ある夜、山に宇宙船が墜落。物音で目覚めたジェニーは、目の前に立つ何から何まで亡き夫にそっくりな男を見て驚愕する。彼の正体は、人類の呼びかけに応えて友好のために地球に降り立った異星人だった。やがて彼とジェニーの間には宇宙を超える愛が生まれる。
監督:ジョン・カーペンター
出演:ジェフ・ブリッジス カレン・アレン
チャールズ・マーティン・スミス
制作年: | 1984 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年9月放送