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ハリウッド版「魁!!!男塾」? ニコラス・ケイジ主演『コン・エアー』の意外な功績とバンド“イエス”ギタリスト作曲のロックな劇伴

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ライター:#森本康治
ハリウッド版「魁!!!男塾」? ニコラス・ケイジ主演『コン・エアー』の意外な功績とバンド“イエス”ギタリスト作曲のロックな劇伴
『コン・エアー』©Touchstone Pictures

「ニコラス・ケイジがニコラス・ケイジを演じる」という突飛な設定が話題の映画『マッシブ・タレント』が2023年3月24日(金)から日本公開になる。劇中ではケイジの代表作と、彼が映画で使った様々な小道具が登場するが、その先陣を切ってスクリーンに映し出されるのが『コン・エアー』(1997年)のラストシーンである。

映画公開から26年が経った今も多くのファンから愛されている本作は、元陸軍レンジャー隊員の模範囚キャメロン・ポーを演じたケイジだけでなく、共演者やスコア(劇伴)を作曲したミュージシャンのキャリアの転機になった作品でもあった。2023年3月にCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送されるこの機会に、『コン・エアー』公開当時の彼らの活躍を簡単に振り返ってみたいと思う。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

「ニコケイ黄金時代」の到来を告げた『コン・エアー』

『ザ・ロック』(1996年)に続くケイジとジェリー・ブラッカイマーのタッグ作となった『コン・エアー』は、「マッチョなアクション俳優ではなく、演技派俳優を主役に据える」という次世代アクション映画のトレンドに乗って大ヒット。両者はその後も『60セカンズ』(2000年)や『ナショナル・トレジャー』シリーズ(2004年/2007年)などで成功を収めた。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

ケイジはこの時期に映画製作会社サターン・フィルムズを設立し、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)や自身の初監督作『SONNY ソニー』(2002年)といったインディペンデント系の秀作を次々と世に送り出した。主演と製作を兼任した入魂のリメイク『ウィッカーマン』(2006年)は興行的惨敗を喫するものの、『コン・エアー』が「ニコケイ黄金時代」の到来を告げる作品であったことは確かである。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

個性派コワモテ俳優集結! タフガイぶりを競い合った撮影現場

最凶最悪の囚人キャラが多数登場する本作は、学位持ちの天才凶悪犯サイラス役のジョン・マルコヴィッチを筆頭に、スティーヴ・ブシェミ、ヴィング・レイムス、ダニー・トレホ、ニック・チンランド、ミケルティ・ウィリアムソン、デイヴ・シャペル、M・C・ゲイニーら個性派俳優が大挙出演。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

トレホが某誌のインタビューで語ったところによれば、「撮影中は誰が一番のタフ野郎か皆で競い合っていた」そうで、本作は思わず笑ってしまうほどのド派手なアクションもさることながら、彼らの演技合戦も見ものとなっている。ケイジとレイムスは『死の接吻』(1995年)で互いに反目するキャラを演じていたので、今回の共演シーンも見応えがある。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

作品選びにこだわりがありそうなマルコヴィッチやジョン・キューザック(連邦保安官ラーキン役)は、ギャラのために本作に出演した感も否めない。しかし、マルコヴィッチはサイラス役の怪演で出演作の幅が広がり、ケイジと共演を果たしたことで前述の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』への参加も実現した。キューザックもケイジと同様に映画製作会社ニュー・クライム・プロダクションズを立ち上げており、本作で稼いだギャラを『ジャック・ブル』(1999年)や『ハイ・フィデリティ』(2000年)といった自身の惚れ込んだ作品に投入することが出来たと思われる。

『コン・エアー』©Touchstone Pictures

コーエン兄弟やクエンティン・タランティーノの作品で異彩を放ったブシェミは、『レザボア・ドッグス』(1991年)で共演したエドワード・バンカー(元犯罪者の作家/脚本家/俳優)としばらく連絡を取っていなかったが、トレホのおかげで再びやり取りするようになり、バンカーの小説を映画化した『アニマル・ファクトリー』(2000年)を監督している(同作にはトレホも出演)。これらの事実から考えると、彼らが構想を温めていた企画の実現に『コン・エアー』が一役買ったとも言えるだろう。

プログレッシブ・ロック界の凄腕ギタリストが映画音楽家に転身

本作のスコア作曲を手掛けたトレヴァー・ラビンは、1983年に再結成した英国のプログレッシブ・ロックバンド、イエスの新加入メンバーとして「Owner Of A Lonely Heart」を大ヒットさせたギタリスト/シンガーソングライターである。

バンド脱退後、ラビンは映画音楽の分野に進出。自身のソロ・ツアーでキーボードを弾いていたマーク・マンシーナが『スピード』(1994年)で成功を収めたように、ラビンも『グリマーマン』(1996年)で映画音楽家としてのキャリアをスタートさせた。

当初『コン・エアー』はマンシーナとラビンが共同でスコアを作曲する予定だったが、途中でマンシーナが『スピード2』(1997年)の仕事に専念しなければならなくなり、ラビンが一人で残りの作曲を仕上げることになったという。エモーショナルなギターサウンドを前面に出したロック色の強い音楽になったのはそのためだろう。

この仕事でブラッカイマーからの信頼を得たラビンは『アルマゲドン』(1998年)の作曲の機会を勝ち取り、『60セカンズ』、『ナショナル・トレジャー』シリーズ、『魔法使いの弟子』(2010年)など10タイトルを超えるブラッカイマー映画で音楽を担当している。

ラビンは2012年から2020年頃まで映画音楽の仕事をセーブし、ソロアルバム「Jacaranda」のリリースやARW(イエス feat.ジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマン)のプロジェクトで活動。ARWは2017年に来日公演を行い、巧みなギタープレイで観客を魅了した。

また、トリーシャ・イヤウッドが歌った本作の主題歌「How Do I Live」を作曲したダイアン・ウォーレンは、自身3度目となるアカデミー歌曲賞にノミネート。その後もブラッカイマー映画の主題歌を作曲し、『アルマゲドン』の「I Don’t Want To Miss A Thing」と『パール・ハーバー』(2001年)の「There You’ll Be」で同賞にノミネートされた。本作をご鑑賞の際は、ラビンの劇伴とウォーレン作曲の主題歌にも是非、耳を傾けて頂きたいと思う。

文:森本康治

『コン・エアー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年3月放送
『マッシブ・タレント』は2023年3月24日(金)より全国公開

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『コン・エアー』

はずみで犯した殺人の罪で8年服役し、模範囚として仮釈放となった元兵士のキャメロン。服役中に産まれた娘や妻との再会を待ち望む彼は、連邦保安局の空輸機(コン・エアー)に乗り込むが、機は冷酷な知能犯サイラス率いる凶悪犯グループに乗っ取られてしまう。

監督:サイモン・ウェスト
出演:ニコラス・ケイジ
   ジョン・キューザック
   ジョン・マルコビッチ

制作年: 1997