衝撃の“監禁スリラー”に登場する「文学作品」を一挙解説!スコリモフスキ製作『HEEL/ヒール』の描く世界
鬼才ヤン・コマサ監督最新作『HEEL/ヒール』の世界を構成するもの
『聖なる犯罪者』で米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされ、現代社会に潜む矛盾と人間の倫理を鋭く描いてきたポーランドの鬼才ヤン・コマサ。誘拐された不良青年トミーと、彼を“いい子”に更生しようとする不気味な家族をめぐる心理スリラー『HEEL/ヒール』が、11月27日(金)より公開となる。
『HEEL/ヒール』© 2025 Skopia Film Sp. z o.o., RPC Good Boy Limited, Venatu Capital Ltd, Canal+ Polska S.A., TVN S.A., WFDiF, All Rights Reserved.
広大な敷地に佇む一軒の屋敷。優雅で穏やかな日常が営まれているように見えるその場所、地下には首に鎖をつけられた少年トミーがいた。異様な状況で一体何が起きているのか? そこに潜む秘密とは――?
このたび、鬼才ヤン・コマサが投げかける本作を読み解く手がかりとして劇中に登場する、文学作品や映画の数々を一挙紹介。時代もジャンルも異なる名作から、本作の世界を紐解いてみよう。
『HEEL/ヒール』© 2025 Skopia Film Sp. z o.o., RPC Good Boy Limited, Venatu Capital Ltd, Canal+ Polska S.A., TVN S.A., WFDiF, All Rights Reserved.
🎬️『ケス』(1969年)監督:ケン・ローチ/📖原作:バリー・ハインズ「A Kestrel for a Knave」
イングランド北部の炭鉱町を舞台に、家庭でも学校でも疎外されている少年ビリーが、一羽のチョウゲンボウを育て、訓練することに生きがいを見いだしていく姿を通して、貧困や教育、階級社会の現実を描く。
社会の中で居場所を見つけられない少年という共通点から、地下室に閉じ込められたトミーの境遇を考えるうえでも興味深い一作。また、鳥を訓練する少年の姿は、「教育」と「え支配」をめぐる本作のテーマとも重なる。なお、当初は『ケス』の代わりにディズニーの『ライオン・キング』を劇中で流す構想があったという。
📖レイ・ブラッドベリ著「刺青の男(The Illustrated Man)」
全身を「動く刺青」で覆われた謎の男と出会った語り手が、その刺青に浮かび上がるさまざまな物語を目撃していく連作短編集。テクノロジーと人間性の対立をはじめ、暴力や恐怖、愛、運命など、人間の本質に迫るテーマが描かれる。
人間の内面に潜む善意や悪意、そして予測できない行動。登場人物たちの言動の裏側に何が隠されているのかという視点から、『HEEL/ヒール』の不穏な人間関係を捉え直す手がかりにも?
📖ハーパー・リー著「アラバマ物語(To Kill a Mockingbird)」
1930年代のアメリカ南部を舞台に、少女スカウトの視点から、人種差別が根強い社会で、白人女性への暴行容疑で起訴された黒人男性の弁護を引き受ける父アティカスの姿を描く。
偏見や正義、善悪、他者への共感を問いかけるアメリカ文学の傑作。何をもって人を善人と判断し、何を正義とするのか。社会に根づく偏見を描いた本作は、家族の中で信じられている価値観や、他者を一面的に判断することの危うさにも目を向けさせる。
📖ジェイン・オースティン著「高慢と偏見(Pride and Prejudice)」
ベネット家の次女エリザベスと、裕福な青年ダーシーの関係を軸に、階級意識や先入観が生む誤解と、それを乗り越えて互いを理解していく過程を描いた恋愛小説。
相手を理解しているという思い込みが、かえって真実を見えにくくすることもある。身近な人間関係に潜む偏見や思い込みという視点から、『HEEL/ヒール』に登場する人物たちの関係性にも注目するきっかけとなるだろう。
📖オルダス・ハクスリー著「すばらしい新世界(Brave New World)」
人間が人工的に生み出され、胎児期からの操作や幼少期の条件づけによって、定められた社会的役割を受け入れるよう管理された未来を描くディストピア小説。自由や幸福、人間性をめぐる矛盾を浮き彫りにする。
作中では、人々が「ソーマ」と呼ばれる薬物によって不安や苦痛から逃れ、人工的な幸福を享受している。薬物によって現実から逃避するのか、それとも苦しみを含めた現実を受け入れるのか。劇中でトミーが言及するこの二者択一は、「再教育」によって人間を変えようとする『HEEL/ヒール』の世界とも通じる。幸福や善意の名のもとに個人の自由が制限されることの危うさを考えさせる一作。
『HEEL/ヒール』 11月27日(金)より全国公開
ドラッグ、パーティー、暴力に明け暮れる19歳の青年トミー(アンソン・ブーン)は、ある夜、飲み騒いだ仲間たちと別れた直後、何者かによって誘拐されてしまう。人里離れた一軒家の地下室で目を覚ましたトミーは、自身が犬のように首輪を嵌められ鎖でつながれていることに気付くと、激しい怒りと恐怖に襲われる。
その家には物腰の柔らかな父クリス(スティーヴン・グレアム)、心に深い傷を抱える母キャスリン(アンドレア・ライズボロー)、そして幼い従順な息子ジョナサン(キット・ラクセン)が住んでいた。謎めいた夫婦は、罰と褒美を与えながらトミーを“いい子”に更生しようとするが、一体彼らの本当の目的とは……?
『HEEL/ヒール』© 2025 Skopia Film Sp. z o.o., RPC Good Boy Limited, Venatu Capital Ltd, Canal+ Polska S.A., TVN S.A., WFDiF, All Rights Reserved.
一家の父クリスを演じるのは、『アドレセンス』のスティーヴン・グレアム。心に傷を抱えた母キャスリンには『To Leslie トゥ・レスリー』のアンドレア・ライズボロー、トミー役には『1917 命をかけた伝令』のアンソン・ブーン。さらにプロデューサーには、ポーランド映画界の巨匠イエジー・スコリモフスキと、そして半世紀以上にわたるキャリアで80本以上の作品を手がけ、今月11日に77歳で逝去したことが報じられたジェレミー・トーマスが名を連ねる。
『HEEL/ヒール』© 2025 Skopia Film Sp. z o.o., RPC Good Boy Limited, Venatu Capital Ltd, Canal+ Polska S.A., TVN S.A., WFDiF, All Rights Reserved.
少年の孤独、人間の本性、偏見と正義、他者への思い込み、そして自由と幸福の矛盾――。劇中に登場する作品群には、いずれも人間や社会のあり方を問い直す視点が通底している。
『HEEL/ヒール』© 2025 Skopia Film Sp. z o.o., RPC Good Boy Limited, Venatu Capital Ltd, Canal+ Polska S.A., TVN S.A., WFDiF, All Rights Reserved.
家族とは、本当に無条件で信頼できる存在なのか? そして、「正しい」と信じている価値観は、誰によって形づくられたものなのか? 劇中に登場する映画や文学作品を手がかりにすることで、『HEEL/ヒール』の物語に潜むテーマや人物たちの関係性、そしてヤン・コマサ監督の想いが、また違った角度から見えてくるかもしれない。