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「子どもに見せられる映画を」西川美和×小八重葵美『わたしの知らない子どもたち』インタビュー「戦争せず、ずっと幸せに」

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ライター:#遠藤京子
「子どもに見せられる映画を」西川美和×小八重葵美『わたしの知らない子どもたち』インタビュー「戦争せず、ずっと幸せに」
小八重葵美(photo:@Ittetsu Matsuoka)
西川美和 監督

西川監督と小八重葵美が語る、『わたしの知らない子どもたち』

10月16日(金)に公開される『わたしの知らない子どもたち』は、第二次世界大戦で疎開から帰ったあと身寄りを失い、保護者なしで生きていかざるを得なくなった子どもたちを描く。西川美和監督が前作『すばらしき世界』(2021年)で主人公のモデルになった実在の男性の半生からインスパイアされた物語だ。

『わたしの知らない子どもたち』©︎2026 K2 Pictures・AOI Pro.

これまで見過ごされてきた戦後の女性と子どもをリアルに描いた力作で、トロント国際映画祭【プラットフォーム部門】でのオープニング作品として上映された。そんな本作について、西川美和監督と主演の小八重葵美さんに話を聞いた。

撮影メイキング 『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

「子どもに見せられる映画にチャレンジしてみたい、と思った」

――『すばらしき世界』のあと、戦争孤児について描かなければという気持ちになられたとプレスリリースにありました。昨今は戦争について語ることをやめさせようとする圧力があるという人もいて、でも一方には圧力に屈せず戦争について語ることが自分の義務なんだと行動し続ける方もいます。監督は、どのようなお考えから本作をお撮りになったのでしょうか。

西川監督:私はもともと、いつか戦争のことをやらなければという思いはなく、むしろ(戦争を)知らない世代の私が戦争をどう描くべきなのかわからないし、上の世代の作品の焼き直しをしても仕方がないと思っていたので、自分の課題とは思ってこなかったんです。前作(『すばらしき世界』)の原作のモデルの人物は、幼年期、親に捨てられて戦後の路上に放り出されて、犯罪や刑務所の出入りを繰り返す人生になってしまったんですが、完成間近にコロナ禍がやってきて長い時間ができたので、その子どもたちの置かれた過酷な状況や、それを打開していく強さや知恵が興味深くて、もう一度調べはじめたんです。

それと同時に、たとえば「はだしのゲン」が広島の平和教材から削除されたり、『火垂るの墓』が近頃は悲惨すぎて子どもには見せたくないという人が増えたという話をちらほら聞く中で、「あれ? じゃあ、いまの子どもたちに、あの戦争をどうつないでいくんだろうな」と思ったんです。私たちの世代までは親や祖父母が戦争を経験してきたから、子どもがそれなりに過酷なものに触れることに対して抵抗がなかったと思うんですが、いまの親が子どもに見せられるものってあんまりないなと思ったんですね。

私の甥は『すばらしき世界』のとき小学三年生で「結構面白かった」って言ってくれたんですけど、よく考えたら私、子どもに見せられる映画を意識的に作ってこなかったな、そこにチャレンジしてみたいな、と思ったのもあったんですね。そこで二つのモチーフとテーマが合致していったという始まりだった気がします。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

――将吉(羽山由一郎さんが演じる孤児の少年)を見て“焼き場に立つ少年”を即座に思い出したんですが、オーディションやキャスティングの際に報道写真などはどの程度参考にされましたか?

西川監督:報道写真や当時の写真はかなりたくさん見ているんですけど……もうオーディションにやってくる子どもは全然、風貌が違いますから。顔も小さいし、現代の服を着てくるし、素敵な髪型だったりもするしで、(出演が)決まったら坊主にしてくれるみたいな条件で来るわけですよ。羽山くんはたまたま少年野球をやっていて坊主だったんです。だからやっぱり……それもオーディションのテクニックなんですけどね、やっぱり決める役にルックが近いと、つい目が行ってしまう。彼の顔つきがわりと昭和の少年に近いと思えた。グループのリーダーみたいな役ですから、本当に過酷な撮影で身体的にも負荷がかかるし、野球部でピッチャーをやってるっていうのと顔つきで決めたっていう、正直、ただそれだけです。でも確かにそうですね。“焼き場に立つ少年”と似ていますね。将吉のあの身体の細さといい、ね。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

「戦争せず、みんながずっと幸せに平和で生きたいと心の底から思いました」

――小八重さんにとってはオーディションはどんな感じでしたか? 心に残った出来事などはありましたか?

小八重さん:西川組のオーディションに行ったとき、一次審査はお芝居で、二次審査は体育館でテントを組み立てたり、キャンプしたり、みんなで遊びながら協力するようなことをいっぱいしました。そういうオーディションは初めてだったから楽しかったです。あと、普通にお芝居したりとか、歌を歌うことも好きだったので歌のオーディションがあったのもうれしかったです。あとは……全部楽しかったけど、とくに覚えているのが、監督と音楽の話をして、ちょっと盛り上がったのがうれしかったです。

――あの音楽のシーンもとっても素晴らしかったですが、ずっと小さいころから音楽をなさってたんですか?

小八重さん:小学生の時に少しだけ吹奏楽部に入りましたが、楽譜も読めないまま練習もサボってしまっていたので続かなくてやめてしまいましたが、音楽を聴くのはもともと好きでした。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

――アコーディオンのシーンがありましたよね。どれくらい練習したんですか?

西川監督:先にピアノ(の練習)が始まりまして。いま言ってくれたように楽譜も読めないし、本当にほぼゼロからっていう状態からだったんですけど、まずピアノが2曲。ドビュッシーとショパンの曲を弾かなきゃいけなかったので。それを八ヶ月前ぐらいに始めてある程度ピアノを弾ける目処がついた後で、アコーディオンの先生にレッスンを始めてもらいました。

――大変な準備でしたね。平和資料館や原爆ドームにもいらっしゃったということですが、撮影が終わって、戦争についてどんなイメージでしょうか?

小八重さん:原爆ドームをみて、怖さと恐ろしさを感じて、そのことがずっと心に残りました。悲しい、くやしいだけでは抑えられない気持ちだけど、心を落ち着かせてお互い気持ちを理解し合ったら平和がうまれる。戦争せず、みんながずっと幸せに平和で生きたいと心の底から思いました。

撮影メイキング 『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

――まったくおっしゃる通りだと思います。それで私は本当にびっくりしたのが、生理が来たときのシーンで、女性観客は全員「どうするの?」って思ったと思うんです。登場人物のセリフにもありましたが、やっぱり女子ってどうしても男子みたいに身軽に動けない。だから周囲と協調せざるを得なくなってコミュ力が高くなるのに、「女子はコミュ力が高いから」とか無神経に言う人とかもいて、本当に東京医大のとき(※東京医大や順天堂大学で女子受験生の点数を一律減点していた不正が2018年に発覚)とか釈然としないことがめちゃくちゃ多かった。監督が主人公を女子に設定したことには、やっぱりそういうジェンダーバイアスを観客に気づかせたいという思いもあったんでしょうか。

西川監督:それが最初にあったわけではないですけど、男性の主人公を描くことが多かったですし、毎回いままでやったことのないことをやりたいなっていう思いで新しい映画に取り組むので、次は女性の物語を撮ってみたいなっていうのはあったんです。けれど、戦争孤児、路上の浮浪児、というと男の子のイメージが強いですが、写真の中では小さい女の子が靴磨きをしていたり、女の子が身の危険があるから男の子のふりをしていたという記述が出てきたので、であれば、そういう境遇でなんとか生き延びた女の子を描いてみたいと思ったんです。

けれども思春期に差しかかる女の子で物語を描いていこうとすると、どうしても身体の成長に伴って変化が起きますよね。本当に小さな子どものときは、女の子も男の子もそんなに差のない暮らしができたかもしれないけれど、それが大きく変わってきて、生きられる場所や生活に必要な環境やものが変わってきますよね。戦後はそれがいちばん過酷な時代だったと思うんです。大人の女性ですら食料も生理用品も手に入らないような状況だったので、みんなが口には出さずにやりくりしながら、不衛生な状況で不安も隠しながら生きていた時代じゃないかなって、私も当時のことを調べつつ、描く内容を掴んでいきました。

女性の生理などについては、やはり資料がたくさんはないんですよね。つまり、いかにそういうことが描かれてもこなかったし、オープンにできなかったか。逆にいまの時代だから、こうして描ける雰囲気ができてきたのかもと思いますね。

撮影メイキング 『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

「子どもが“加担者”になっていくところも、絶対に描きたかった」

――小八重さんは、どんな気持ちであのシーンを演じていらっしゃったんでしょうか? インティマシーコーディネーターの監修のもと、助産師からの指導があった上で撮影に臨まれたそうですね。

小八重さん:(考えながら)……怖いし、恥ずかしかったけど、男の子のふりをしてるからみんなに言えないし。婦警さんに聞いても男の子だと思われてるから怒られちゃうし、お母さんもいないから誰も頼る人がいなくて自分も怖かったし、琴子もすごい怖かったと思います。その途中でけいさん(田中裕子さん演じる漁師の妻)が気づいてくれて、いろんなことを教えてくれて、それで琴子は救われたと思います。けいさんのおかげでもあるし、琴子自身の強さもあって、なんとか乗り越えられたんじゃないかなって。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

――はい、とても感動しました。琴子ってすごく面白いキャラクターで、そもそもお父さんの反対を押し切って疎開に行っちゃうんですよね。小さな間違いなのに大きな代償を払ってしまう。琴子が100%の被害者ではなく、彼女なりに間違えるシーンも描いたのはどうしてだったんですか? 間違っても頑張って打開していく強さとか、自分で修正するレジリエンス的なことを描かれたかったのかなと思ったのですが。

西川監督:そうですね。子どもは戦争のいちばんの被害者だとは思うんだけれど、でも被害者とはいえ、ある程度、意思や考えを持ち始める年齢になると、大人以上に大きな声に反応しやすい。熱狂しやすくなってしまって、いわゆる「小国民教育」に、全国の子どもたちがのめりこんでいたわけですよね。だから加害者とは言わないまでも、加担者には確実になっていく存在であるということも含めて描きたかったです。

単にかよわい無意志な存在ではなくて、実際そうなったらもう止められない部分も子どもにはあって、それも含めて大人の責任だと思っているんです。親は反対したのにとか、勝手にハンコついて疎開に行っちゃったとか、自分だけ行かないと周りにどういう目で見られるかわかんないって、小学生も中学生も、そんな感じでいたんだろうなと思いました。子どもが加担者になっていくところも、絶対に描きたいなと。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

――田辺聖子さん(※小説家、第50回芥川龍之介賞ほか受賞)なども、自分は軍国少女だったけど親が冷ややかに“いつか負ける”みたいに言っていたことに対して「なんや!」と思っていた、と書き残していらっしゃいますね。二階堂ふみさんが演じられた曽根先生が最初は建前しか言わない大人として出てきて、琴子はそこに反抗していく。小八重さんは二階堂さんと共演して、いかがでしたか?

西川監督:いちばん最初は職員室だったっけ? あのとき先生が「敵性音楽を弾いたらみんなが困る」っていうところ、あれ、どんな感じでやってた? どんな気持ちで聞いてた?

小八重さん:琴子とゆきちゃんは楽しそうにピアノ弾いていただけなのに、髪を引っ張られたりとか、非国民みたいなことを言われたり。先生にも怒られたり、理不尽。琴子からしたらそう思うかもだけど……自分だったら、ちょっと納得してるかも。納得しちゃうな。うん。

西川監督:ゆきちゃん的になっちゃうってこと?

小八重さん:敵だと言われている国の音楽とかを弾かれたら、誰もいい気分にはならないから。ちょっと冷静に考えて……。

――ちゃんと反省してしまう感じですか? 

小八重さん:(うなずく)

撮影メイキング 『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

「この国の、女性の性や子どもの生活が根本的に大事にされない部分が、果たして変わっているのか」

――二階堂ふみさんが演じられた曽根文美子の物語も大きな柱になっていますよね。「身分帳」(『すばらしき世界』の原作小説)の真ん中あたりに「街娼が浮浪児の唯一の味方だった」という短い一文があったんです。曽根文美子さんの物語は、そうした背景から生まれたものなんでしょうか。また特殊慰安施設の女将が啖呵を切るシーンのセリフも相当すごくて、そういう施設があったんだという歴史に光を当てていらっしゃる印象も受けたんですが。

西川監督:曽根先生が売春をするという筋立ては、相当あとからできてきたものなんです。最初は子どもたちが直面する出来事だけで映画を作っていこうと思ったんですが、琴子がどんどん言葉を発さなくなっていくので、見捨てた側の大人の後悔も交えて語り部のような存在がこの物語を前に推し進めていくといいなと思って、曽根先生を中心軸にしたんです。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

そうなったときに、戦後に大人の女性は何に直面したのかということを調べていく中で、進駐軍向けの慰安婦施設が政府や警察主導で早々に出来上がり、一般人を巻き込んで騙し討ちのように売春させていたっていうことに突き当たったわけですね。それが、あたかも自然な女性の選択のように描かれて、「ああ、そういう手段しかないだろう、女性は」と流されていまに至るこの国の、女性の性や子どもの生活が根本的に大事にされない部分が、果たして変わっているのかなっていう思いもありまして。

さまざまな日本の戦後の女性研究にも、そんなことはたくさん書かれています。だから戦後、曽根さんがいきなりパッと派手な衣装で街に立っているような表現ではなく、赤間麻里子さん演じるダンスホールの人事部長とのセリフから、そのプロセスについても明確な場面にしたかった思いはあります。

――本当に素晴らしい作品です。どうもありがとうございました。

『わたしの知らない子どもたち』©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

『わたしの知らない子どもたち』は10月16日(金)より全国公開

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『わたしの知らない子どもたち』

戦争で家族と日常を奪われた12歳の少女・琴子(小八重葵美)は、生き延びるために自らの性別を隠し、“少年”として生きることを選んだ。進駐軍相手の慰安施設や路上売春が広がる時代の中で、少女であること自体が危険となる現実から逃れるための決断だった。音楽家の父(竹野内豊)のもとで穏やかに暮らしていた琴子の人生は、敗戦によって一変し、「自分自身を手放す」という過酷な選択を迫られる。
一方、かつて琴子が疎開した学校の教師・曽根(二階堂ふみ)もまた、戦時中は軍国主義教育に加担していた側だったが、敗戦によって信念も立場も失い、過去の責任と向き合いながら生きることを余儀なくされていた。加害と被害、そのどちらにも割り切れない現実の狭間で揺れ動きながら、それでも今日を生き延びようとする曽根。
“少女”を棄てた琴子はどこへ向かうのか。そして曽根は、再び人として立ち上がることができるのか。戦争によって運命を大きく変えられた二人の、生と再生の物語。

出演:小八重葵美 二階堂ふみ
   坂東龍汰 櫻井海音 花瀬琴音 
   羽山由一郎 小林丞之介 岩田龍門 渋谷そらじ 武内ひなた
   北村有起哉 吉田 羊 竹野内 豊
   岡田准一 / 田中裕子 役所広司

原案・脚本・監督:⻄川美和
⾳楽:原摩利彦
撮影:笠松則通 照明: 宗賢次郎 ⾳響: ⽩取貢 特機: 上野隆治 美術: 三ツ松けいこ 装飾:須坂⽂昭 
⾐裳デザイン:⼩川久美⼦ ⾐裳: 岩﨑⽂男
ヘアメイクデザイン:酒井夢⽉
スクリプター:⽥⼝良⼦ 編集:菊池智美 ⾳響効果:北⽥雅也 
キャスティング:⽥端利江、⼭下葉⼦
助監督:中⾥洋⼀ 制作担当:⼭内遊 VFXスーパーバイザー:上⽥倫⼈、髙橋正紀
⾳楽プロデューサー:杉⽥寿宏 ラインプロデューサー:横井義⼈
製作:紀伊宗之 プロデューサー:⼩出⼤樹、伊藤太⼀
製作・配給:K2 Pictures
共同製作:AOI Pro.
企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro.
©2026 K2 Pictures・AOI Pro.

制作年: 2026