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韓国ドラマ『カマキリ』――獄中の連続殺人鬼の母と刑事の息子、血よりも静けさが怖い心理戦

韓国ドラマ『カマキリ』――獄中の連続殺人鬼の母と刑事の息子、血よりも静けさが怖い心理戦
『カマキリ』©SBS Based on the original series "LA MANTE", produced by Jean Nainchrick © Septembre Productions / TF1 / 2017

※ 本ページはプロモーションを含みます。
※本記事の情報は2026年9月26日時点の情報です。最新情報は公式サイトにてご確認ください。

韓国ドラマ『カマキリ』全16話 韓国サイコスリラーの新境地――コ・ヒョンジョンが初めて演じる連続殺人犯の凄み

『カマキリ』とは、SBS制作の韓国サイコスリラー(全16話)で、フランスのドラマ『La MANTE』を韓国でリメイクした作品です。獄中にいる連続殺人犯”カマキリ”チョン・イシンをコ・ヒョンジョンが、その息子である刑事チャ・スヨルをチャン・ドンユンが演じ、舌を切り取られた男の死体から始まる模倣犯事件を、母と息子が手を組んで追います。『羊たちの沈黙』や『殺人の追憶』を愛する方に向けた、血と静けさのドラマです。

舌のない死体から、すべてが始まる

第1話の冒頭で、男の死体が見つかります。舌が切り取られた状態で。

この一場面で、『カマキリ』というドラマがどういう温度のものかは、はっきり伝わります。派手な追走劇でも、爆発でもありません。静かな部屋に横たわる、口の中が空洞になった死体。それを見下ろす刑事たちの、乾いた沈黙。私はこの最初の数分で、これは腰を据えて観るドラマだと覚悟を決めました。

原題は「サマギ:殺人者の外出」。サマギとはカマキリのことで、交尾のあとに雄を食う、あの虫の名です。連続殺人犯の女にこの通り名を与えた時点で、このドラマが何を描こうとしているかは、およそ見当がつくでしょう。副題の「殺人者の外出」という言葉の不穏さも、観終えるころには別の重みを帯びてきます。

その手口は、ある事件をなぞっていました。かつて世間を震え上がらせた連続殺人犯、”カマキリ”と呼ばれた女、チョン・イシン。彼女はすでに逮捕され、獄中にいます。それなのに、彼女の犯行をそっくり再現する模倣犯が現れました。警察は追い詰められ、一つの選択を迫られます。本人に訊くしかない、と。

そして、チョン・イシンは条件を出します。捜査に協力する代わりに、息子と話をさせろ、と。その息子こそ、母の罪から逃げるように生き、刑事になった男、チャ・スヨルでした。

獄中の殺人鬼に捜査への助言を求めるという設定。『羊たちの沈黙』を観てきた方なら、この骨格に胸が高鳴るはずです。ただ、『カマキリ』が持ち込んだのは、レクター博士とクラリスの間にはなかった関係です。母と息子。血のつながった二人が、机を挟んで向かい合う構図です。その距離の近さが、このドラマをまるで別のものにしています。

もう一つ、韓国版ならではの要素として書いておきたいのは、全16話という尺です。フランスの原作よりも長い時間をかけて、韓国版は事件と家族の両方を掘り下げていきます。序盤は模倣犯の捜査が軸ですが、話数が進むにつれて、母と息子の過去、そして「なぜ彼女はカマキリになったのか」という問いが前面に出てくる。長さが冗長ではなく、深さに変わっているのは、脚本の設計が確かだからです。

コ・ヒョンジョンが初めて殺人犯を演じた

コ・ヒョンジョンという俳優が連続殺人犯を演じるという事実。それだけで、私はこのドラマを観る理由になりました。

韓国ドラマを長く観てきた方なら、コ・ヒョンジョンの名前に特別な重みを感じるでしょう。気品と強さを併せ持つ女性像を何度も刻んできた大女優が、今回初めて、人を殺す女を演じています。しかも、それをまったく「怪物らしく」演じていません。ここが凄いところです。

チョン・イシンは叫びません。凄みません。穏やかに、ほとんど微笑みながら話します。息子に向ける視線は、母親のそれです。それが、たまらなく怖いのです。彼女がかつて男たちに何をしたのかを観客はすでに知っているのに、画面の中の彼女は、ただ静かに座っているだけ。その静けさの下に、何が眠っているのか。コ・ヒョンジョンは、それを一切説明しません。ただ、目の奥にわずかな光を宿らせるだけです。

彼女が事件の話をするときの、あの落ち着き払った口ぶり。私は画面から目を離せませんでした。この女は、人が死ぬことを、美しいものを鑑賞するように語っているのです。台詞の内容ではなく、声の温度だけでそれを伝えられる俳優は、そう多くありません。

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血と静けさ。韓国サイコスリラーの新しい温度

『カマキリ』の演出でもっとも印象に残ったのは、暴力の描き方の落差です。

模倣犯の犯行現場は、容赦がありません。切り取られた舌、身体に刻まれた傷、赤黒く固まった血。カメラは目を背けず、その一つひとつを、証拠品を撮るような冷たさで見せます。韓国の映像作品が持つ、この「見せる」覚悟は健在です。ある現場の描写では、私は一度、再生を止めて息を整えました。

ところが、そうした場面の直後に置かれるのは、決まって静かな場面です。閉ざされた部屋。向かい合う母と息子。誰も声を荒げず、時計の針の音が聞こえそうな沈黙の中で、言葉が一つずつ交わされていきます。この対比が、ドラマ全体に独特のリズムを生んでいます。血が流れたあとの静けさは、血そのものよりも重いのです。『殺人の追憶』の田んぼの場面を思い出す方もいるでしょう。

そして、模倣犯は誰なのか、という謎。チョン・イシンの犯行をここまで正確に再現できる人物は、彼女の手口を知り尽くしている者に限られます。それは、警察の内部なのか。過去の関係者なのか。あるいは、もっと近くにいる誰かなのか。息子であるスヨルが、母の口から出る一言一言を頼りに真相へ近づくたび、彼自身の過去もまた掘り返されていきます。追う側の刑事が、追われる側の血を引いているのです。この構造が、捜査の一歩一歩を、そのまま彼の傷口に変えていくのです。

チャン・ドンユンの芝居は、その痛みを、大きな表情ではなく、こわばった肩や逸らされた目線で見せてきます。母の前で刑事として振る舞おうとして、息子の顔がにじんでしまう瞬間。それが何度も、静かに訪れます。

チョ・ソンハをはじめとする脇の俳優陣が、この母子の周囲を固めています。捜査本部の焦り、組織の圧力、世間の目。そうした外側の力が、二人の対話に少しずつ影を落としていく構造は、韓国の捜査ドラマが積み上げてきた技術そのものです。

このドラマを観るべきなのは、こんな人

『羊たちの沈黙』で、レクターとクラリスの対話に痺れた方。『殺人の追憶』で、真相よりも人間の暗がりに惹かれた方。あるいは『シグナル』や『秘密の森』のような、捜査の手続きと人間の業を同時に描く韓国ドラマを追いかけてきた方。『カマキリ』は、そうした方の期待に真正面から応えるサイコスリラーです。

派手なアクションや恋愛の甘さを求める方には向きません。ここにあるのは、閉ざされた部屋の沈黙と、死体の傷と、母の微笑みだけです。ただ、それらがこれほど濃密に積み重なるドラマは、韓国サイコスリラーの中でも多くありません。

全16話。一気に観るには長く、一話ずつ噛みしめるには短い長さです。私は週末の二晩を、この母子に捧げました。後悔はありません。

観終えたあと、しばらく誰とも話したくなくなるドラマです。それは、後味が悪いからではありません。母と息子が交わした言葉の一つひとつが、まだ耳の奥に残っていて、それを他の音で上書きしたくないからです。そういうドラマに出会える機会は、年に何度もありません。

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※2026年9月26日時点の情報です。最新の配信状況・料金は各公式サイトでご確認ください。

文:BANGER!!!編集部

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