統合失調症の姉を見つめる『どうすればよかったか?』
ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』が公開されたのは2024年の12月。統合失調症の姉と、彼女を家の中に閉じ込めた両親の姿を20年以上にわたって記録し、公開後すぐに大きな話題を集めた。
本作は、わずか4館での公開から口コミで全国100館以上に拡大し、16万人を動員。2億3000万円の興行収入を記録するなど、ドキュメンタリーとしては稀に見る大ヒットとなっている。
そして今、この熱気は海を越えた韓国にも波及し、異例のヒットを記録しているようだ。
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なぜ? 日本のドキュメンタリーが韓国で異例ヒットの背景
『どうすればよかったか?』は今年7月29日に韓国で公開されると、半月足らずで動員4万人を突破。公開館を拡大し8月半ば(公開16日目)には5万7000人の動員を記録し、ハリウッドの大作映画がひしめく中でボックスオフィスの10位圏内をキープするという快進撃を見せている。
韓国では多くのメディアが、この異例の興行成績と作品の持つ普遍的なメッセージ性について連日のように報じている。では、“1万人を動員すれば大ヒット”とされる独立系ドキュメンタリー映画が、異国の地でこれほどまでに注目を集めている理由は一体どんなものなのだろうか?
『どうすればよかったか?』 ©2024 動画工房ぞうしま
精神疾患と家族のケア――海を越えて共感を呼ぶ〈課題〉
当然ながら、本作で描かれる出来事は決して海を隔てた特殊な家庭だけの話ではない。韓国でも統合失調症の生涯有病率は約1%とされ、推定50万人が罹患していると言われている。現代の誰もが直面しうる「家族のケア(介護)」や「精神疾患」という極めて身近な問題として、韓国でも観客の当事者意識を強く刺激したはずだ。
事実、韓国保健福祉部による2024年の調査では、精神疾患を持つ家族の20.2%が「過去1年以内に自殺を考えたことがある」というショッキングな結果が出ている。家族が抱える孤立や深い苦悩は韓国社会でも共感を呼ぶ深刻な課題であり、それが本作への強い関心へと直結しているのだろう。
『どうすればよかったか?』 ©2024 動画工房ぞうしま
観客を当事者に変える、ストレートなタイトルの引力
『どうすればよかったか?』という作品タイトルは、藤野知明監督自身の痛切な自問であり、亡き両親への問いでもある。しかし同時に、スクリーンを見つめる観客一人ひとりに対する直接的な問いかけとしても機能している。
「もし自分だったら、強制的にでも入院させるべきだったか?」、「世間体を気にする頑なな両親を、どう説得すればよかったか?」――鑑賞中はもちろん、劇場を後にしてからも、観客はこの正解のない問いを反芻し続けることになる。
この「自分ごと」として深く考えさせる強い力が、精神科医などの専門家から一般の観客に至るまで自発的な議論を生み出し、掲示板やSNS等での熱量の高い口コミへと繋がっていると思われる。
『どうすればよかったか?』 ©2024 動画工房ぞうしま
20余年に及ぶ「極めて私的な記録」が生んだ反響
本作の核にあるのは、24歳で統合失調症を発症した姉と、世間体を気にして彼女を自宅に半監禁状態にした医師の両親の姿を、弟である藤野監督が20年以上にわたってカメラに収め続けたという事実。政治的、社会的なマクロのテーマを掲げるのではなく、極めて私的(パーソナル)な家族の肖像に淡々と迫ったことが、同様の問題を抱える韓国での大きな反響につながっている。
『どうすればよかったか?』 ©2024 動画工房ぞうしま
そして、このヒットを後押ししているもう一つの要素が、公開形態に対する藤野監督の姿勢だ。韓国メディアでは、統合失調症に対する差別的な視線が依然として存在するなか、様々なリスクを懸念して「お金を払ってでも直接観たい人だけが訪れる空間」として公開範囲を劇場のみに限定する、という監督の方針を紹介している。
実際この決断は韓国でも尊重され、結果的に「今、映画館に行かなければ観ることができない」という事実が、多くの観客を劇場に足を運ばせる強力な動機付けにもなったと言えるだろう。
『どうすればよかったか?』は全国の一部劇場でアンコール上映中
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