あなたが見たい映画・ドラマを一発的中※ 会員登録が必要です

気分(複数選択可)
年代(複数選択可)
作品タイプ(複数選択可)
  • BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • “独裁者の身代わり”を生き延びた女性は晩年、何を明かしたのか?『ヒトラーの毒見役』が暴く衝撃の事実

“独裁者の身代わり”を生き延びた女性は晩年、何を明かしたのか?『ヒトラーの毒見役』が暴く衝撃の事実

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#髙橋直樹
“独裁者の身代わり”を生き延びた女性は晩年、何を明かしたのか?『ヒトラーの毒見役』が暴く衝撃の事実
『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

「食べて死ぬか、撃たれて死ぬか」

――挑発的なコピーが冠された『ヒトラーの毒味役』は、戦争を生き延びた女性が残した衝撃の告白を映画化した作品である。文字通り“毒味役”となった女性の背後には銃。口にしたら死ぬかもしれない。だが食べなければ殺される。女性たちに選択の余地はなかった。

2012年、戦後67年を迎えたある日、95歳のドイツ人女性マルゴット・ヴェルグは、「ヒトラーには毒味役がいた。私はそのひとりだった」と明かした。彼女はこの秘密を墓場まで持って行くつもりだったに違いない。晩年の告白に衝撃を受けたイタリアの女性作家ロッセラ・ポストノリは、歴史の闇に葬られようとしていた極限の体験談を基に「ヒトラーの毒味役」を執筆した。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

夫を戦地に送り出した妻たちが“毒見役”に

1943年、ドイツ占領下の東プロセイン(現在のポーランド)、森に囲まれた小さな町に女性が辿り着く。彼女の名はローザ、爆撃が迫るベルリンから逃れるためにロシアに赴任する夫の故郷に疎開した。義父が「この地にはヒトラーの隠れ家<鷲の巣(ヴォルフス・シャンツェ)>がある」と耳打ちすると、「彼がそこにいるかどうかは列車の音で分かる。住人の誰もが知っていることだ」と教える。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

ある朝、将校がローザに同行を求める。軍用車には自分と同年代の女性たち。到着した施設で健康診査された後、目にも美しい豪勢な料理が並んだ食卓に案内される。「これを食べていいの!?」と目を輝かせる女性もいる。誰もが空腹を抱えて豪勢な料理には目がくらんだ。

この施設こそ、地域戦の陣頭指揮を執る秘密要塞<鷲の巣>だった。暗殺を恐れた独裁者は自分が口にする食事の毒見を命じた。この任務に選ばれたのが、ローザのように夫を戦地に送り出した妻や寡婦となった無防備な7人の女性。週に5日、朝早くに呼び出され昼食と夕食の毒味を続けた。食後一時間は経過監察、その後は夕食まで中庭で過ごした。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

劣勢の戦況、暗殺未遂事件、苛烈な粛清

ヒトラーの専属シェフと軍人の監視下で、女性たちは毒味を続ける。戦況は刻一刻と変わる。ロシア制圧が降伏に帰したドイツ軍は戦闘能力を失い、劣勢へと追い込まれていく。そんなある日、規律に厳しい親衛隊のツィーグーラーが着任し、施設内の緊張が高まっていく。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

1944年7月20日、狼の巣に激震が走る。ドイツの敗戦を確信した側近たちがヒトラー暗殺を企て、軍事会議に爆弾を仕掛けた。通称<ワルキューレ作戦>で4人の側近が死亡。クーデターを生き延びた総統の粛正は凄まじく、即座に首謀者たちを銃殺した後、7,000人超を逮捕、見せしめ裁判で4,000人以上を葬った。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

世界的パンデミック、ウクライナ侵攻により映画化は難航

2018年、イタリア人によるドイツの重要な物語を映画化する製作準備が始まる。その間に小説は世界46カ国で翻訳されてベストセラーに。最初のロケハンは、実際に<鷲の巣>があったポーランド北部のパルチで行われた。

※現在のヴォルフスシャンツェ 『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

その直後、世界は予想外のパンデミックに直面する。映画業界と市場が激変する中、2022年にロシアがウクライナに侵攻を開始。制作チームはロケ地変更を余儀なくされた。

2024年5月17日、イタリアの南チロル地方で約7週間の撮影。ドイツ語がベースとなるため、ローザ役のエリーザ・シュロット、ツィーグーラー役のマックス・リーメルト、ローザのソウルメイト、エルフリードにはオーストリア出身のアルマ・ハスーンらがキャスティングされた。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

権力による抑圧、戦争がもたらす破滅的な影響

本作の最重要ポイントは、何の力も持たない名もなき女性の視点で戦争を見つめていることだ。監督には、作家としても活躍するクリスティーナ・コメンチーニが予定されていた。だが諸般の事情で叶わなくなる。そこで、ダヴィド・ディ・ドナテッロ賞で主要9部門を独占した『ベニスで恋して』(2000)や、盲目の女性とプレイボーイの恋を描いた『エマの瞳』(2017)など、コメディから人間ドラマまで、精細なタッチで知られるシルヴィオ・ソルディーニが監督を務めることになった。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

本編の序盤、まだ体力が回復しないローザが着の身着のままで車へと誘導される。か細い身体の揺れに呼応して手持ちカメラも揺らぐ。いきなり通された食卓で、三人の女性の背中越しに四人の顔を並べる。別の日には、四つの後ろ姿に訝しげに食事をする三人の顔が並ぶ。ルイ・マルやダニエル・シュミット、ゴダール、ロメールらの撮影で知られる名撮影監督レナート・ベルタによる、視覚にダイレクトに訴えかける緻密に設計された映像が、非日常の緊張感をつぶさに伝える。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution

平時なら女性たちが和やかに集って料理を楽しむ食卓が、ヒトラーの毒味役という戦時下の非日常で繰り返される。その過程で浮かび上がるのは、権力による抑圧と戦争がもたらす破滅的な影響であり、生きることに対する根源的な乾きである。

なぜ、ローザだけが生き残ることができたのか……。なぜ、彼女は晩年にこの事実を告白することにしたのか……。イタリアの映画製作者たちの心を突き動かしたその理由は、本編の中にある。

文:髙橋直樹

『ヒトラーの毒見役』は7月31日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『ヒトラーの毒見役』

1943年、第二次世界大戦末期。
ベルリンの爆撃を逃れ、義両親のいる田舎町で戦地にいる夫の帰りを待つローザ。その場所は“狼の巣”と呼ばれる、ヒトラーの総統大本営「ヴォルフスシャンツェ」がある森の近くだった。
ある日、彼女はヒトラーの毒見役に命じられ、他の若い女性たちとともに、親衛隊から銃を突き付けられながら食事をすることに。
ヒトラーが食す最高の料理を、死と隣合わせの最悪な状況で口にする苦悩の日々。
そして1944年7月、総統大本営でヒトラー暗殺を狙うクーデター(7月20日事件)が勃発。
戦局が混迷を極める中、彼女たちの運命は──。

原作:ロッセラ・ポストリノ「ヒトラーの毒見役」 監督:シルヴィオ・ソルディーニ
脚本:ドリアーナ・レオンデフ シルヴィオ・ソルディーニ ルチオ・リッカ クリスチナ・コメンチーニ ジュリア・カレンダ イラリア・マッキア

出演:エリーザ・シュロット マックス・リーメルト アルマ・ハス―ン エマ・ファルク
   オルガ・フォン・ラックヴァルト テア・ラッシェ ベリット・ヴァンダー クリームヒルト・ハーマン

制作年: 2025