あなたが見たい映画・ドラマを一発的中※ 会員登録が必要です

気分(複数選択可)
年代(複数選択可)
作品タイプ(複数選択可)
  • BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 「当時の韓国は“三つのものを手放す時代”と言われていた」キム・ドヨン監督が明かす『サヨナラの引力』の背景と撮影秘話

「当時の韓国は“三つのものを手放す時代”と言われていた」キム・ドヨン監督が明かす『サヨナラの引力』の背景と撮影秘話

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#遠藤京子
「当時の韓国は“三つのものを手放す時代”と言われていた」キム・ドヨン監督が明かす『サヨナラの引力』の背景と撮影秘話
キム・ドヨン監督

『サヨナラの引力』キム・ドヨン監督インタビュー

韓国映画『サヨナラの引力』が、7月3日(金)より全国公開。長距離バスで出会ったウノ(ク・ギョファン)とジョンウォン(ムン・ガヨン)の友情は恋に変わるが、生活苦でお互いの気持ちが荒れていき、別れてしまう。10年経って海外で偶然再会するが……という物語だ。

20代から30代になる登場人物の変化を、俳優たちがまったく違和感なく演じたことに驚かされたが、社会問題など背景もまたリアルに描かれている。プレミア上映で来日したキム・ドヨン監督に作品にこめられた思いを聞いた。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「最初のキスシーンの撮影では、本当にたくさん話をしました」

――ク・ギョファンさんについて、最初は実年齢から20歳以上どうやって若く見せたのかとお聞きしようと思っていたんですが、さきほどたまたま生のク・ギョファンさんを見かけたら本当にすごくお若くて、逆にどうやって大人っぽく見えるようにしたんですか?

(笑)大人っぽいという言葉は、彼の行動やリアクションを見たときに成熟している感じや、冷静沈着で落ち着いた雰囲気があると思って言ってくださったんですよね。そういう演技を彼がしっかり上手にやってくれたので、無理なく若いころの姿と年を重ねた姿を行き来するように、両方を見せることができたんだと思います。

――監督がとくに、そのような演出をされたということなんでしょうか。

それぞれのシーンごとにたくさん話し合いをして、あるときはご本人が合意してくれたり、あるときは「こう解釈した」と話してくださるのを聞いたり、話し合いを重ねて一緒に作っていきました。ですから、ご本人も思いきり自分なりの表現ができたんだと思います。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

――とくに心に残っている、長く話し合いをしたシーンはありますか?

最初のキスシーンですね。あのシーンを撮るときにはもう、みんなが緊張していました。というのは、あのシーンを上手く撮れれば次のシーンにまた一つ進める、という非常に大事なシーンだったので、本当にたくさん話をしたんです。そして別れのシーンや、地下鉄での別れのシーン、ホーチミンの川辺でのシーン。別れの中にもたくさんの感情が必要でしたので、そういったシーンではたくさん話し合いました。

――キャスティングはどのように決まったんでしょうか?

まず製作会社から提案があったんですけれども、たまたま私が一緒に作品を撮りたいと思っていた二人だったので、もう一発でオーケーしました。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「当時は恋愛、結婚、出産を放棄する“三放主義”と言われる時代だった」

――恋愛が進展していく過程で、背景として社会状況も大きなファクターとして描かれていますね。主人公たちはリーマンショック後の不況の影響をダイレクトに受けていて、生活が苦しいのに大家さんから更新料の催促があったりと住宅でも困窮しています。2008年という時代を彼らの恋愛が始まった年に設定したのは、どんな理由があるんでしょうか。

その理由は、まさにいまおっしゃってくださったところが基盤になっているんです。恋愛中とは言っても二人とも社会に属している人物なので、社会的な影響を受けざるを得ませんよね。この時代設定にすることによって、いくら二人が仲良くしたい、いい恋愛をしたいと思っても、社会という大きな壁にぶち当たってしまう。その姿を顕著に表せると思ったからです。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

――ウノがブラック企業に入って、パワハラに遭うシーンもあって、当時の韓国の若い人たちの労働環境が非常に過酷だったことがよくわかりました。こういうことは、やっぱり韓国の国内でも大きな社会問題になっていたんでしょうか。また、監督はそういったことを描かなければというお気持ちだったんでしょうか。

はい、先ほどお話しした内容とも関連があるんですけれども、当時は「三放主義」といって、三つのものを手放す時代、恋愛、結婚、出産を放棄する時代と言われていました。夢を持つことさえ贅沢だと思われていて、就職するのも大変なときだったんです。

とにかく生存のためにがむしゃらに生きなければいけない時代だったので、恋愛するふたりの関係にも、そういったことが大きな影響を与えることになります。ただ、時代を問わず、ひとつの社会に属している以上、社会的な影響というものは受けざるを得ないですね。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

――ウノの友人たちがレストランビジネスで成功したりして、ウノが「しまった!」みたいになるシーンもあります。そのあたりは競争社会的な感覚も入れたいということだったんでしょうか。

競争社会を描きたいというよりも、ウノの友だちがお店を開いて成功できたのは、お父さんがお金持ちだからなんです。韓国では「金のスプーンを持って生まれてきた」と表現するんですが、それであの友だちはラーメンも作れないのにレストランの社長になっているということで、ウノは本当に羨ましいと思っていたはずなんですね。

あの友だちもまったく悪意はないんですが、回想シーンでは「ゲームで100億を稼ごうなんて愚かだよ」と言っていますよね。おそらく、それを聞いてウノは傷ついていたでしょうし、やはりそれが劣等感にもつながってしまったのではないかなと。そういうところを表現しようと思って入れたシーンです。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「“シック(食口)”という韓国語には、“一緒に食べることによって家族になる”という意味がある」

――監督は『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)も監督なさっています。私たちはどうしても社会の影響を受けてしまって、「あのときこうしていれば」というようなことをいつも思ってしまうんですけれども、それだけじゃなく「こうなったけれども、よかったね」というところが、『サヨナラの引力』の魅力だなと私は感じまして。

ありがとうございます。

――『キム・ジヨン』でも原作小説より結末を明るく描かれていたように私は感じたんですが、監督ご自身もポジティブに世の中を捉えていきたいという気持ちを普段から持ってらっしゃるんでしょうか。

はい。やはり、ポジティブなメッセージや希望を持たせてくれるようなメッセージは必ず入れたいと思っています。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

――本作では、主人公の気持ちによって色彩がモノクロからカラーになっていきますよね。でも、モノクロパートも美しく撮られていて、4色分解したようなグラデーションがありました。そうした色彩や美術的な表現について、どのような点に留意なさったんでしょうか?

白黒のシーンでは細部にわたってディテールを生かせたらなと思って、あのような色使いにしました。それは私だけではなく、撮影監督をはじめ皆さんがデザインをしてくださったところもありますね。あと、美術的にあの時代を表現するうえで留意したのは、映画の中に出てくる何か所かの空間です。

ジョンウォンが最初に住んでいたコシウォンの、試験を受けるための小さなマンションのような安い部屋(※コシウォン[考試院]は受験生などショートステイ向けの2畳程度しかない簡易宿泊施設)と、ふたりが恋愛しているときに住んでいた屋上の部屋ですね。あと半地下ですけれども、その時の主人公たちが置かれている状況や関係性を強調するような、そんな空間を表現したいと思いました。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

――そうですね。せっかく気に入った家具を拾ってきたのに、その家具が入らない狭い部屋に引っ越さざるを得ないところなど、すごくリアルでした。加えて印象的だったのが食事シーンです。お料理を準備されるのも大変だったのではないでしょうか。

本当におっしゃる通り、あの映画の中に出てくる食べ物を準備するのが本当に大変でした。サンナッチという生きたままのタコをぶつ切りにした料理なども、スタッフが一生懸命苦労しながら準備してくれました。食べ物が出てくるときに、白い湯気がモクモクと立ちのぼっているところも撮りたかったので、そこでもまた苦労しました。映画の中では“一緒に食べる”という行為も非常に大事にしていたんです。

韓国では「食べる口」と書いて「シック(食口)」と言うんですが、「一緒に食べることによって家族になる」という意味があるんです。ですから食べるシーンもとっても大事で、“いま食べている人々はみんな家族なんだ”と表現したかったんです。とくに、あのお父さんが数多くのおかずを並べて分けてくれますよね。あれはお父さんの愛の表現でもあり、食べ物と一緒にお父さんの気持ちまで伝われば、と思って撮っていました。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「韓国では2008年当時、女性がタバコを吸うということに対して拒否感がありました」

――お父さんの愛だけでなく、お父さんの老いをスープを使って表現されていたのも非常に印象的でした。気になったのが、ジョンウォンがタバコを吸う場面です。いっとき健康意識が高まってタバコを吸う描写はあまり映画などで出てこなくなりましたが、いま再びタバコが使われているのは登場人物の反逆精神や子どもっぽさを表すためと言われています。実際、ジョンウォンがタバコを吸うことに男性が失望したりするシーンもあって、あれは彼女が家父長制的な社会からはみ出している、という記号だったんでしょうか。

そうです。韓国では2008年当時、女性がタバコを吸うということに対して拒否感がありました。あのころはまだ家父長制度的な雰囲気が色濃く残っていたからなんです。でもジョンウォンがタバコを吸っていたのは、じつは序盤なんですよ。あのころの彼女は化粧も濃いし何に対しても反抗的で、ちょっと荒削りな生い立ちだというところを見せたかったんです。そんな彼女がウノと出会ってからは変わっていきます。恋愛をしながら純粋になっていって、メイクも薄くなっていくんです。

――確かに。はい!

そういうふうに、ウノと出会う前と出会った後で変わっているんですよ、ということを視覚的に見せたいと思いました。でも先輩はジョンウォンがタバコを吸っていることに失望していましたが、ウノはそういう反応ではないですよね。つまり、ウノがあまり家父長制的な考え方に囚われていない人で、そしてジョンウォンにとってはとても特別な人なんだということを見せたかったんです。

――なるほど。あれはウノの人間性の表現でもあったんですね。いろんな深い演出があったことが改めてわかりました。

ありがとうございました。

『サヨナラの引力』© 2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

取材・文:遠藤京子

『サヨナラの引力』は7月3日(金)より全国公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『サヨナラの引力』

2008年の夏、ソウル。大学生のウノとジョンウォンは長距離バスの中で運命的に出会う。ゲーム作家を夢見るウノと、建築家に憧れるジョンウォン。夢と不安を抱えた都会の日々の中で支え合ううちに、二人はやがて恋に落ち、深く愛し合う。しかし、若さゆえに抗えない現実の厳しさから、別れを選ぶ――。それから10年が経った2024年の夏、二人はソウル行きの飛行機で偶然再会する。あの頃の思い出を振り返る中で、ウノはずっと胸の奥にしまっていた問いをジョンウォンに投げかける。「もしもあの時…」。

監督:キム・ドヨン『82年生まれ、キム・ジヨン』
出演:ク・ギョファン、ムン・ガヨン

制作年: 2025