「映画館が閉まる前に、自分が死ぬかもしれない」オズグッド・パーキンス監督が語る最新作『KEEPER/キーパー』
『KEEPER/キーパー』
5月29日(金)より公開
オズグッド・パーキンス作品に漂う独特の空気――文学的・象徴的な表現、嫌悪や混乱をもって物語より「感覚」にうったえる“何か”――は、人を選ぶ。この姿勢は『ロングレッグス』(2024年)で世界的な注目を集める以前から、『フェブラリィ -悪霊館-(ソフト題『フェブラリィ ~消えた少女の行方~』)』(2015年)、『呪われし家に咲く一輪の花』(2016年)にも一貫している。
5月29日(金)より公開の最新作『KEEPER/キーパー』は、所謂オズグッド・スタイルの極北にあるといえる。何が起こっているのか完全には理解できないかもしれない。しかし、それが狙いであり、「恋愛地獄」というテーマを象徴的に描くにはベストといえるだろう。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
オズグッド・パーキンス監督インタビュー
山荘にやってきた恋人たち(リズ、マルコム)の微妙な駆け引きが、次第に超自然的な地獄へと変貌していく過程は見事。不安定な空気感の構築はパーキンスの真骨頂で、観客の想像力を刺激し続ける。
視覚デザインも秀逸だ。クリーチャーの示唆的表現――あざとくないチョイ見せ――が恐怖を増幅させ、そこかしこから物音が聞こえる音響デザインは、驚くほどの緊張感を感じさせる。
『KEEPER/キーパー』は、『ロングレッグス』でオズグッド作品にハマったファンには意外性がありつつ、彼ならではの不気味さは健在といえるだろう。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
「今どれだけ意識的に振る舞っていても、昔の振る舞いは消えない」
――あるインタビューで監督は、『KEEPER/キーパー』を「disgusting maleness(おぞましい男性性)」という言葉で表現していました。監督自身、自分の中にあるそういった側面と向き合ったことはありますか?
もちろん向き合ったことはある。でも「有害な男性性についての映画を作ったから、世の男たちよ、これを見ろ」みたいな態度は、それはそれで安っぽくなってしまうと思っていて。世界の意識が今までのあり方から変わりはじめているなかで、「豊かな白人の英語話者」である自分――つまり僕――は、あまり良い歴史を踏んできていないわけだよ。
いつだって学ぶべきことはある。今まで通りの価値観で育ってきた人間は、変わろうとし、新しい認識を身につけようとする責任がある。ただ、今それが「時代の潮流」だからって、過去がなかったことになるわけじゃない。今どれだけ意識的に振る舞っていても、昔の振る舞いは消えない。そこへの責任も同時に引き受けてるんだ。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
――監督のお父様であるアンソニー・パーキンスは『サイコ』(1960年)で母親に支配される男を演じ、今回、監督は逆に女性を支配し続ける男を撮りました。この対照性を意識していましたか?
いや、まったく意識していなかった。作っている間に意図していたのは、物語が怪物譚であること、黒魔術ものであることが明かされるまでのあいだ、男性と女性がこの関係性において、どちらも同じくらい不安定な立場にあるという状況を描くことだったんだ。もちろん理由はそれぞれまったく違うけどね。
マルコム(演:ロッシフ・サザーランド)は自分が何者であるか、自分がしてきたことに引き裂かれていて、リズ(演:タチアナ・マズラニー)へのわずかな愛情と、罪悪感と、おそれを持っている。リズはリズで、不安と不確かさを抱えている。だから超自然的な現実が明かされて、彼女が一時的に圧倒されて、そして最終的に勝つまで……できるかぎり男女が対等な状態を保とうとしていた。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
「受け身じゃなく参加して観てもらうことで、知覚によって新たな命を吹き込まれる」
――映画の中で部屋の位置関係や空間の連続性がわかりにくくなっていますが、これは意図的なものですか?
意図的だよ。リズの感覚に観客がアクセスしやすくするために、わざとわかりにくく撮っている。部屋の位置関係がはっきりしない方が、彼女の不安定さ、周囲との断絶感、「自分はここに属していないかもしれない」という感覚に、観客がより近づきやすくなると思ったんだ。ハイな状態や酔っているときのように、時間が連続して流れるのではなくエピソードの断片として分かれていく感覚に近い、って以前別のインタビューで話したけど、まさにそれ。カフカ的な、謎めいた地理感覚がこの映画では意図的なんだよ。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
そもそも僕はContinuity(場面のつながり)にあまり関心がなくて。それってリアルライフじゃない、映画がやることじゃないと思っているから。どこに何があるか、部屋の中で誰がどこにいるかが全部わかる映画って、面白くないんだよね。映画はむしろ夢みたいな状態でいい。全部見せないことで、観客が前のめりになって自分自身の考えを持ち込んでくれる――そういう招待ができると思っている。
アートは受け身じゃなく参加して観てもらうことで、観る者の知覚によって新たな命を吹き込まれる。僕が他の監督なら入れるものをあえて排除しているとすれば、それは観客が参加できる空間を作りたいからなんだ。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
――『THE MONKEY/ザ・モンキー』(2025年)に続いてのタチアナ・マズラニー(リズ役)とのコラボレーションでしたね。
タチアナは本当に素晴らしいコラボレーターだよ。僕がイメージメーカーとして物事を二次元的に見がちなのに対して、彼女は物事をサイコロみたいに、キューブみたいに見るんだ。どの面も等しく「あり得る選択」として見えている。そして僕には、女性として男性と関係を持った経験がない。その言語がない。でも彼女にはある。脆弱性、力学、自信のあり方、居心地の悪さ、信頼と不信頼――それらを女性の視点から体験として持っているんだよね。
特に印象的だったのは、いとこのダレンとリズが二人きりになるシーン。僕はそこをすごく二次元的に見ていたんだけど、タチアナは「彼女はダレンを気持ちよくさせようとするはずだ」って言ったんだ。“自分の安全のため”にね。最初はそれが腑に落ちなくて。脅威となり得る相手を弱く感じさせた方が良いんじゃないか? って思ったんだけど、彼女の説明は逆だった。相手に「自分は強い、コントロールしている」と感じさせることで、その脅威をニュートラル化できるって。僕からは絶対に出てこない発想の反転だよ。そういうことが撮影中ほぼ毎日起きた。彼女はほとんど常に、僕のまったく逆側の視点から動いていたんだ。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
「何かが地平に見えている感覚はある。だから友人たちと、できるかぎり美しいものを作り続けたい」
――『KEEPER/キーパー』は14日間で撮ったと聞きました。この1年半で3本のペース、何か焦りのようなものがあるんでしょうか。劇場文化に対する危機感とか。
映画館が閉まるより前に、自分がいつ死ぬかわからない、っていうのも正直あるよ。ただ、ここ数年の本数はちょっと異常だったし、繰り返したいとは思ってない(笑)。
たまたまそうなったんだよね。『ロングレッグス』を作るためにカナダへ来て、すごくいい経験をして。次の作品まで時間が空いたから、「じゃあもう1本」ってなって、気づいたら3本ものすごいスピードで作っていた。今は編集中で、来年頭に次の作品を公開する予定だよ。
でも、終末の感覚は確かにある。パーソナルなものなのか、劇場公開の終わりなのか、あるいは核の危機なのか――どれかはわからないけど、何かが地平に見えている感覚はある。だから友人たちと、できるかぎり美しいものを作り続けたいんだ。
『KEEPER/キーパー』© 2025 SHADOWLESS HORSE PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
取材の最後、次回作『The Young People(原題)』について「ベストだ、すごく満足している」と監督は話した。ネオン(配給)を心強く思っていると伝えると、笑顔でうなずいていた。
『KEEPER/キーパー』は5月29日(金)より全国公開
『KEEPER/キーパー』
とある週末、都会暮らしのアーティスト、リズ(タチアナ・マズラニー)が、恋人の医師・マルコム(ロッシフ・サザーランド)から交際1周年の記念旅行に誘われる。ところが鬱蒼とした森に囲まれた山荘に到着後まもなく、リズは奇妙な幻覚に苛まれることに。翌日、マルコムが病院に呼び出され、ひとり取り残されたリズは、現実と悪夢の境目を見失い、山荘内にうごめく何かの気配に脅かされていく。果たして、この山荘に隠された秘密とは……。
監督:オズグッド・パーキンス
出演:タチアナ・マズラニー
| 制作年: | 2025 |
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2026年5月29日(金)より全国公開