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「ますます社会は悪くなっていく」パク・チャヌク監督が語る『しあわせな選択』の“恐ろしい結末”とは【一部ネタバレ有】

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ライター:#遠藤京子
「ますます社会は悪くなっていく」パク・チャヌク監督が語る『しあわせな選択』の“恐ろしい結末”とは【一部ネタバレ有】
パク・チャヌク監督『しあわせな選択』©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED
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パク・チャヌク監督が最新作『しあわせな選択』を語る

毎回期待を裏切らない韓国映画の巨匠、パク・チャヌク監督。今年のカンヌ国際映画祭の審査委員長に就任し、2月27日に行われた最新作『しあわせな選択』のジャパンプレミアでは主演のイ・ビョンホンとともに河合優実さんもゲスト登壇と、華やかな話題が続く。

パク・チャヌク監督、イ・ビョンホン、河合優実 『しあわせな選択』ジャパンプレミア
©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

しかし『しあわせな選択』は、勤続25年で会社からリストラされた中間管理職が職を奪うためにライバルの殺人を画策するブラックコメディだ。半地下どころか豪邸の住人たちすら危機に直面させられる大リストラ時代、監督にインタビューして初めてわかった、さらに恐ろしい結末とは……?

パク・チャヌク監督『しあわせな選択』©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

「原作の残忍なアイロニーを強化した」

※注意:インタビュー後半で物語の内容に触れています

――作品とても面白く拝見しました。いつもどのように素材を探して、どのようにアイディアを得ていらっしゃるのでしょうか。『お嬢さん』(2016年)の原作はサラ・ウォーターズで、『オールド・ボーイ』(2007年)は日本のコミックが原作ですね。探しながら読書をなさっているのか、趣味として読書を楽しんで「これを作りたい」とお思いになるのでしょうか。

『オールド・ボーイ』と『お嬢さん』は同じプロデューサーが作品を持ってきてくれて、これをもとに映画を作ろうと声をかけてくれました。今回の『しあわせな選択』に関しては趣味で読んで、たまたま見つけたことになります。

もともとミステリー小説が好きで読んでいました。『渇き』(2009年)もエミール・ゾラの作品を元にしているんですけれども、これも、ただ映画のために読んだわけではなかったんです。

『しあわせな選択』©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

――『しあわせな選択』の原作「斧」(ドナルド・E・ウェストレイク著)では主人公が株主批判もしていますが、本作の主人公マンスはとくに社会批判をしませんね。これは不満を表に出さない韓国男性の特徴を考慮されてのことなんでしょうか。作品タイトルが出たあと、早い段階で白人の男性重役が「Sorry, No Other Choice」と言っていて(※『しあわせな選択』の英題は『No Other Choice』)、それがマンスにとって呪いの言葉のようになり、ほかの選択ができなくなっていくようにも見えました。

確かに、原作小説には資本主義や企業や株主に対しての批判的な描写もたくさんあるんですが、基本的には主人公が企業によって裏切られ職を失ってしまう流れがあって、そのことに対して怒りを感じていたわけですよね。しかし矛先はそちらに向かわず、むしろ同じ立場、つまり資本主義システムの被害者ともいえる人たちに矛先が向けられてしまったというのが、とても残忍なアイロニーだと思いました。原作のそうした部分を強化したんです。企業への批判もあるのは承知の上で、そちらを浮き彫りにするよりも、残酷なアイロニーのほうに目を向けて強化して描くことにしました。

もしマンスが正しい人間であれば、ほかの仕事を探していたと思います。本当に悔しいと思うのであれば企業を相手に訴訟を起こすとか、システムに対して怒りを感じるのであれば労働運動を起こすとか、そういう行動をとるべきだったと思いますが、彼はその道は選ばなかった。むしろ険しく非現実的な道を選んでしまって、じつはそれが敗北の道だということはもう誰が見ても明らかなんですが、彼は力のない同じような労働者を(怒りの)対象として殺していくほうを選んでしまいました。

『しあわせな選択』©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

そして、先ほどおっしゃってくださったように、アメリカの会社の重役が「仕方がない(No Other Choice)」と言いますが、あの重役の立場からすればその言葉に正当性があったんだとは思います。景気が悪いし、いまはもうネット社会になってしまって手紙や紙を使わなくなった。会社としてもやっていくのが大変な状況で、会社が倒産してしまうと全員が失業者になってしまう。それは火を見るよりも明らかな状況だったので、何人かだけを解雇して会社を維持したほうがより良いのではないか、そちらのほうが大きく見たら人間的なのではないか、そういう考えに基づいて、あの重役は「仕方がない」と言っていたんです。

ただ、そこでもう一度基本に立ち返って、企業として解雇するだけが道なのか、リストラしてしまったらそれだけでいいのか、ということも考える必要があるんです。ほかにも何らかの方法があると思いますが、それを考えずにああいう言葉を言ってしまったら、やはりそれは卑怯な弁解、言い訳になってしまう。「仕方がない」と諦めて、より良い方法を探さずに非道徳的な方法を見つけてしまう。そういったことを繰り返していると、ますます社会は悪くなっていくと思います。

『しあわせな選択』©︎2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

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『しあわせな選択』

「全てを叶えた」——製紙会社で 25 年間、堅実に仕事をしてきたマンスは、心からそう思い、妻と2人の子供、2匹の犬と郊外の大きな家で“理想的”な人生を送っていた。突然、会社から解雇されるまでは。必死に築いてきた人生が、一瞬のうちに崩壊!? 好調の製紙会社への就活も失敗したマンスが閃いたのは、衝撃のアイデアだった。それは……「ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る」。

監督:パク・チャヌク
出演:イ・ビョンホン、ソン・イェジン、パク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン

制作年: 2025