シドニーの穏やかな海が一転、阿鼻叫喚の地獄に――。27歳のサーファーでミュージシャンのアンドレ・デ・ロイテルさんを襲った悲劇と、そこからの奇跡的な生還が世界中で注目を集めている。
「僕を食べている!」血の海での絶叫
1月19日、シドニー北部のモナ・ベール・ビーチで友人たちと共に波を楽しんでいたアンドレさん。しかし午前10時半頃、その平穏は突如として破られた。体長約3メートルと推定されるホホジロザメが、水面下の静寂を破って彼を襲撃したのだ。
サメは彼のサーフボードを突き飛ばし、そのままアンドレさんの右脚に牙を剥いた。目撃者が「ホラー映画のようだった」と語るその光景は、あまりにも凄惨だった。サメに食らいつかれたアンドレさんは、周囲のサーファーたちに向かって「あいつが僕を食べている! 殺される!」と叫び声を上げたという。
生存率5%未満…生死を分けた攻防
サメがアンドレさんを水中に引きずり込もうとする中、彼は自身のサーフボードでサメの頭を何度も叩き、必死に抵抗。友人や周囲のサーファーたちも、自らの命の危険を顧みず彼のもとへ泳ぎ寄り、サメを追い払って彼を岸へと引き上げた。
やっとのことで岸にたどり着いたとき、アンドレさんの右脚は膝下から激しく損傷し、大量の出血で砂浜が赤く染まっていた。この時、アンドレさんはすでに心停止の状態に陥っており、医師がのちに推定した生存の可能性は「5%未満」という絶望的なものだった。
しかし、現場にはさらなる奇跡があった。偶然居合わせた非番の医師がすぐさま心肺蘇生を開始。同時に、現場の人々は即座にサーフボードのリーシュコードを止血帯として代用し、懸命に命を繋ぎ止めた。
音楽への情熱と再生への道
アンドレさんは救急ヘリでロイヤル・ノース・ショア病院へ緊急搬送。医師たちは懸命の処置を行ったが、あまりの損傷の激しさに右脚の膝下切断を余儀なくされた。
この悲劇は、地元では知られたドラマーでもあるアンドレさんのキャリアに大きな影を落とすこととなった。しかし彼は病院のベッドからSNSを通じ、自身を救ってくれた「ヒーローたち」へ深い感謝を綴っている。
「片足を失ったことは人生を変える出来事だが、生きていられるだけで幸運だ」――そう語る彼の言葉には、絶望の中にも力強い意志が宿っている。現在、周辺の海岸は閉鎖され、当局による監視が続いているとのことだ。
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別のサメ襲撃事件では12歳の少年が犠牲に…
オーストラリアでは今月、サメによる被害が立て続けに発生している。18日には南オーストラリア州で、12歳のニコ・アンティックくんがサメの襲撃により命を落とす悲劇が起きた。翌19日には、アンドレさんが襲撃される数時間前に同じビーチで11歳の少年のサーフボードがサメに噛みちぎられており、20日にもシドニー市内の別のビーチで39歳の男性サーファーがサメの襲撃により胸部を負傷している。
短期間に連続したサメ被害に対し、さらなる襲撃を懸念して数十のビーチが閉鎖された。サメの駆除を求める声も高まっているが、専門家はむしろサメの行動に対する認識を深め、人間と自然との関わり方を再考するよう訴えている。