雪に覆われた山々は、息をのむほど美しい。真っ白な雪、青い空、そして荘厳な山頂――そこには日常では決して見ることのできない、神々しいまでの景色が広がっています。だからこそ、古来より人々は雪山に挑み続けてきました。「なぜ山に登るのか」という問いに対し、ある登山家は「そこに山があるから」と答えました。その言葉が示すように、雪山は人間を惹きつけてやまない存在なのです。
しかし、雪山は美しいだけではありません。その美しさの裏には、想像を絶する過酷さと恐ろしさが潜んでいます。極寒、酸素の薄さ、突然の天候の変化、雪崩、クレバス――雪山は、一瞬の判断ミスが命取りになる、人間にとって最も過酷な環境の一つです。
そこで今回は、雪山を舞台にした映画を5作品を紹介します。美しくも恐ろしい雪山の世界へ、ようこそ。
山は何もしない、ただそこにある
『八甲田山』(1977年)
監督:森谷司郎
出演:島田正吾、大滝秀治、高倉健 ほか
【あらすじ】
明治34年末、日露戦争を目前に控えた日本陸軍は、寒冷地での戦闘経験の不足を痛感していました。ロシア軍と戦うためには雪中行軍を経験し、雪とは何か、寒さとは何かを知らなければなりません。その訓練の目標となったのが、冬の青森・八甲田山で……。
【おすすめポイント】
日本映画史に残る山岳遭難の傑作です。高倉健主演、新田次郎の小説を映画化した本作は、明治時代に実際に起きた八甲田雪中行軍遭難事件を描いています。210名中199名が死亡するという、近代登山史上最悪の山岳遭難事故です。本作の凄まじさは、極寒の中での撮影を敢行したリアリティにあります。俳優たちは実際に雪山で撮影に臨み、凍傷の危険と隣り合わせで演技しました。
『運命を分けたザイル』(2003年)
監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョー・シンプソン、サイモン・イェーツ、ブレンダン・マッキー ほか
【あらすじ】
1985年6月、若き英国人クライマー、ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツは、アンデス山脈の難関、標高6600メートルのシウラ・グランデ峰に挑みます。ほぼ垂直にそびえる西壁は、いまだ誰も成功したことのない未踏のルート。二人は困難を乗り越え、ついに登頂に成功しますが、悲劇は下山中に起き……。
【おすすめポイント】
ジョー・シンプソンのベストセラー・ノンフィクションを映画化した、衝撃の実話です。当事者たちのインタビューと再現ドラマを交えたドキュメンタリータッチの本作は、登山史上最も過酷な決断の一つを描き、雪山の美しさと残酷さ、そして人間の極限状態を見事に映像化しています。
『劔岳 点の記』(2008年)
監督:木村大作
出演:浅野忠信、香川照之、松田龍平 ほか
【あらすじ】
明治39年、陸軍参謀本部陸地測量部の測量手である柴崎芳太郎は、国防のため日本地図を完成させるため、最後の空白地点である劔岳の初登頂と測量を果たせという命令を受けます。立山連峰にそびえる劔岳は、その険しさから多くの者が挑みながら誰一人頂上を極められずにきた未踏峰の最難所。信頼できる案内人・宇治長次郎と共に、柴崎たち測量隊は総勢7人で劔岳の登頂に臨みますが……。
【おすすめポイント】
日本映画界を代表する名カメラマン木村大作が初監督を務めた山岳映画。新田次郎の小説を映画化した本作の魅力は、実際に劔岳・立山連峰でロケを敢行した、圧倒的な映像美です。測量隊と同じ行程をほぼ忠実に辿る危険と隣り合わせの過酷な撮影により、CGでは決して表現できないリアリティが生まれています。
『アイガー北壁』(2008年)
監督:フィリップ・シュテルツェル
出演:ベンノ・フユルマン、ヨハンナ・ヴォカレク、フロリアン・ルーカス ほか
【あらすじ】
ベルリン・オリンピックを目前に控えた1936年夏。ナチス政府は国家の威信を世界に示すため、ドイツ人によるアイガー北壁初登頂を大きな目標に掲げます。成功者にはオリンピック金メダルを授与すると約束され、多くの登山家が集結しました。トニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーの二人のドイツ人が、真っ先に北壁へのアタックを開始しますが……。
【おすすめポイント】
アルプス登攀史上最大の悲劇と呼ばれた実話を基にした山岳ドラマ。1930年代、ヨーロッパ最後の難所と呼ばれたアイガー北壁を舞台に、ナチス政権下で国家のプロパガンダに利用された登山家たちの悲劇が描かれます。麓のホテルで望遠鏡を覗きながら登山家たちの様子を「観戦」する人々の姿は、登山の商業化とメディア化を象徴し、北壁で繰り広げられる壮絶な戦いは、人間の限界を超えた挑戦の過酷さを見せつけます。
『エベレスト 3D』(2015年)
監督:バルタザール・コルマウクル
出演:ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジョン・ホークス ほか
【あらすじ】
1996年春、ニュージーランドの登山ガイド会社によって世界最高峰エベレストの登頂ツアーが企画され、世界各国から8人のアマチュア登山家が参加しました。彼らを率いるのはベテラン・ガイドのロブ・ホール。1ヶ月かけて高度に順応させながら、いよいよ登頂を目指しますが……。
【おすすめポイント】
実際に発生したエベレスト登山史上最悪の大量遭難事故を、豪華キャストで映画化した群像山岳ドラマ。この事故では多くの登山家が命を落としました。本作では商業登山ツアーの光と影も描かれます。お金を払えば誰でもエベレストに登れる時代――しかしそれは、山の混雑と安全性の低下をもたらしました。雪山の美しさと恐ろしさ、そして商業登山という現代的なテーマを観る者に突きつけます。
雪山の美しさと過酷さを描いた5作品になったのではないでしょうか。そして、いずれの作品も実話に基づいている点にも注目です。
確かに、雪山は美しい。実際に雪を被った数千メートル級の山々を見上げると、神々しさすら感じます。そして、それと同時に人間を拒絶する冷酷さをも感じさせます。どうして人間はそんな雪山に挑むのか? これらの映画を見て自然への畏敬の念と、人間の可能性への感動を感じてみるのはいかがでしょうか。