10代の少女が昼間から路上に立つ売春地帯〈ザ・ブレード〉“異常事態”の深刻な理由とは

10代の少女が昼間から路上に立つ売春地帯〈ザ・ブレード〉“異常事態”の深刻な理由とは
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ロサンゼルス南部、フィゲロア・ストリート。この一帯は地元で<ザ・ブレード>と呼ばれているという。そんなストリートで深刻化している大規模な“売春・人身売買”行為について、いま大手ニュースメディアから地元のローカルメディアまでが続々と報じている。

真昼間から大勢の女性が“客引き”をするストリート

真昼間から露出度の高い衣装の若い女性たちが並び、車列がゆっくりと“品定め”する。12歳の子どもがランジェリー姿で歩いていても、誰も止めない。いや、止められないのだ。

<ザ・ブレード>は約50ブロックにわたる巨大な売春・人身売買地帯で、市当局は未成年の多さから“キディ・ストロール”と呼ぶようになった。女性たちの中には、里親制度からこぼれ落ちた少女も多くいるという。SNSで“優しい友達”を装う男に誘われ、気づけばノルマと暴力の世界に閉じ込められる。

殴られた跡、裂けた唇、タトゥーで刻まれた“所有印”。それでも彼女たちは逃げられない。逃げたとしても必ず連れ戻されるからだ。

女性たちを“コンテンツ化”し、リクルート装置としても機能するSNS

警察も見て見ぬふりをしているわけではない。しかし、2023年に施行されたSB-357(Safer Streets for All Act/すべての人に安全な街路を提供する法律)は、「服装を理由に警察が声をかけてはならない」と定めた。結果、12歳の子供が下着姿で歩いていたとしても、警察は年齢確認すらできない。

この法律は本来、黒人・ラテン系女性への差別的取り締まりを防ぐためのものだった。しかし現場では、ピンプ(ポン引き/売春の斡旋人)たちがSNSで「売春は“合法”になった。働け」と都合よく吹聴し女性たちを煽る“免罪符”として悪用されている。LA市警の元幹部は「この法律が未成年の搾取を爆発的に増やした」と語る。

さらに深刻なのは、SNSが<ザ・ブレード>を“見世物化”し、同時に“勧誘装置”として機能していることだ。インスタグラムやYouTubeには、ストリートの女性たちを勝手に撮影した動画が大量に投稿されている。女性たちを“304”という隠語で呼び、深夜の車内から“選ぶ”様子を撮影し、数百万再生を稼ぐ。――これらは女性たちをコンテンツとして消費し、性搾取をエンタメ化する危険な文化を生み出している。

一方で、ピンプにとってSNSは最高の営業ツールだ。インスタのDMで「30日働けば車が買える」「1日1000ドル払う」と甘い言葉を送り、位置情報追跡やメッセージで24時間監視する。逃げ場はない。女性たちは“恋人”を名乗る男に依存し、暴力と支配の関係に絡め取られていく。

「救っても、ほとんどが戻ってしまう」

警察と連邦機関は2024年以降、大規模な摘発作戦を繰り返し、190人のトラフィッカー逮捕、200人の子ども救出という成果を上げた。しかし現場の警官は口を揃える。「救っても、ほとんどが戻ってしまう」。ピンプの心理的支配、家族への危害をほのめかす脅し、行き場のない女性たちの“帰る場所”の欠如、そして児童福祉の崩壊……救出は“終わり”ではなく、またストリートに戻るまでの一時的な休息にすぎない。

それでも、女性たちを救おうとする人々はいる。<Children of the Night>や<Run 2 Rescue>といった民間団体は、食事、シェルター、教育を提供し続けている。ある少女は支援を受けて高校に戻り、大学を目指すまでに回復した。しかしSNSでは支援団体が掲げる「Pimps Don’t Care, We Do.(ポン引きは気にしない(何もしてくれない)が、私たちは気にする(助ける)」という看板を嘲笑する動画が拡散されるなど、善意はしばしばネット上の悪意にかき消される。それでも「あなたは商品じゃない」「助けを求めていい」と声をかけ続けるしかない。

<ザ・ブレード>は、貧困、家庭崩壊、SNS文化、法制度の欠陥、ギャングの支配が絡み合った“複合災害”だ。取り締まりだけでは終わらない。法律だけでも終わらない。SNS規制だけでも終わらない。必要なのは、女性たちが「ストリートに戻らずに済む場所」を作ること。そして、この通りを“見世物”として消費する社会の無関心を断ち切ることだろう。

性的搾取や人身売買の実態を追うドキュメンタリー作品

『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』(Netflix)

富と権力を振りかざし、虐待を繰り返していた性犯罪者ジェフリー・エプスタイン。その実態を、被害者たちの勇気ある証言とともに検証するドキュメンタリー。

『ザ・ピンク・ルーム』(アジアンドキュメンタリーズ)

買春を強いられるカンボジアの少女たちと、その少女たちを救出し、深い心の傷を回復させようと支援する人々の活動を追ったドキュメンタリー。巧妙になりつつあるカンボジア児童買春の衝撃の実態と、社会の変革に果敢に挑む支援スタッフの情熱に心打たれる作品。

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