2025年10月10日(金)より、あの伝説的SF映画シリーズの最新作『トロン:アレス』が劇場公開されます。1982年の第1作『トロン』、2010年の『トロン:レガシー』では、デジタル世界へと足を踏み入れた人間の姿が描かれましたが、本作ではその逆、デジタル世界が現実世界を侵食するとのことで、どのような展開が待っているのか期待が高まります。
近年、「メタバース」という言葉が一般的になり、VRやARといった技術の発展により、仮想空間はもはやSFの世界だけのものではなくなりました。実際にVRゲームで友人と遊んだり、仮想空間でライブを楽しんだりすることも当たり前の時代になっています。そこで今回は、メタバースやデジタル世界をテーマに盛り込んだ5作品を紹介します。
デジタルの中にあるもう一つの世界
『マトリックス』(1999年)
監督:アンディ・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス ほか
【あらすじ】
ニューヨークでしがないプログラマーとして働くトーマス・アンダーソンは、実は“ネオ”の名で、裏世界の凄腕ハッカーとしても一目置かれる存在でした。ある日、“ネオ”は謎の美女トリニティーに導かれ電脳世界の伝説モーフィアスと出会います。モーフィアスが“ネオ”に明かした衝撃的な真実とは……。
【おすすめポイント】
メタバース映画の金字塔とも言える本作は、1999年の公開当時、革新的な映像表現と哲学的なテーマで映画史に革命をもたらしました。緑色の文字が流れる独特のデジタル表現、黒いコートとサングラスのクールなビジュアル、そしてワイヤーアクションを駆使した重力無視の格闘シーンは、今見ても色褪せない魅力があります。
『サマーウォーズ』(2009年)
監督:細田守
声の出演:神木隆之介、桜庭ななみ、谷村美月 ほか
【あらすじ】
世界中の人々が利用する巨大仮想空間「OZ(オズ)」が日常生活に当たり前に存在する近未来。天才的な数学能力がありながらも内気な高校2年生・健二は、憧れの先輩・夏希に頼まれ、彼女の田舎の実家を訪れます。そこには夏希の曾祖母・栄の90歳の誕生日を祝うため、個性溢れる親族たちが勢ぞろいしていました。そんな状況に振り回されながら、健二は謎のメールに書かれた暗号を解読するのですが……。
【おすすめポイント】
細田守監督による、気弱な理系少年の思いも寄らないひと夏の大冒険を描くSF青春アドベンチャー。仮想空間「OZ」のカラフルで可愛らしいデザインは、『マトリックス』のダークな世界観とは対照的で、より親しみやすく、誰もが楽しめる空間として描かれています。
『レディ・プレイヤー1』(2018年)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、ベン・メンデルソーン ほか
【あらすじ】
2045年、環境破壊と貧困で荒廃した地球。人々は仮想空間「OASIS(オアシス)」に逃避し、理想の自分として生きていました。ある日、OASISの創設者ハリデーが亡くなり、彼が遺した3つの謎を解いた者に莫大な遺産とOASISの所有権が与えられることになります。17歳の少年ウェイドは仲間たちと共に謎解きに挑むのですが、邪悪な陰謀を張り巡らせる巨大企業が立ちはだかり……。
【おすすめポイント】
スピルバーグ監督が描く、ポップカルチャーへのラブレターとも言える痛快娯楽作。仮想空間「OASIS」の映像美と自由度の高さは、まさに理想のメタバースかもしれません。重力を無視したカーレース、恐竜が闊歩する世界、そして誰もが知る名作映画の世界に入り込めるなど、想像力の限界を超えた冒険が次々と展開されます。
『フリー・ガイ』(2020年)
監督:ショーン・レヴィ
出演:ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、ジョー・キーリー ほか
【あらすじ】
銀行員のガイは、毎日同じルーティンを繰り返す平凡な生活を送っていました。しかし、彼には知らない真実がありました――実は、彼は「フリー・シティ」というオープンワールド・ゲームの中のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)だったのです。謎の女性に出会ったことで真実を知ったガイは、プログラムされた行動から外れ、自我に目覚めはじめ……。
【おすすめポイント】
「もしゲーム内のNPCに意識があったら?」という設定が光る、ユーモアとアクションに満ちた痛快作です。ライアン・レイノルズの持ち前の軽妙な演技が、善良で前向きなガイというキャラクターに完璧にハマっており、観ているだけで元気をもらえます。ゲームの世界特有の表現である体力ゲージ、アイテム収集、レベルアップなどが映画の中に違和感なく取り入れられ、ガイが次第にプレイヤーキャラクターのような能力を身につけていく過程は、ゲーマーなら誰もが共感できるでしょう。
『竜とそばかすの姫』(2021年)
監督:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太 ほか
【あらすじ】
高知の田舎町に住む高校生・すずは、歌うことが大好きでしたが、幼い頃に母を亡くしてから人前では歌うことができなくなっていました。親友に誘われ、全世界で50億人が集う仮想空間「U(ユー)」に参加した彼女は、「ベル」という美しい歌姫のアバターとして、歌う喜びを取り戻します。ある日、ベルのコンサートに「竜」と呼ばれる謎の存在が乱入し、Uは大混乱に……。
【おすすめポイント】
細田守監督が『サマーウォーズ』から12年の時を経て描いた、現代のメタバース観が凝縮されたSFファンタジー。仮想空間「U」のビジュアルデザインは圧巻で、50億のアバターが集う巨大な球体空間、それぞれが個性的な姿で存在する多様性の表現は圧巻です。
メタバースやデジタル世界を描いた5作品を選んでみました。1999年の『マトリックス』から2021年の『竜とそばかすの姫』まで、約20年の間にデジタル世界の描き方は大きく進化してきました。初期の作品では「現実 vs 仮想」という対立構造が目立つ印象でしたが、近年の作品では両者が共存し、相互に影響を与え合う関係として描かれています。しかし、時代が変わっても変わらないのは、デジタル世界を通して「人間とは何か」「繋がりとは何か」「自分らしさとは何か」という普遍的なテーマが問われ続けていることかもしれません。