カンヌ、ベネチア、ベルリン、世界3大映画祭を制覇した鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督の待望の最新作にして記念すべき第10作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が、2024年10月3日(金)より公開されます。主演にレオナルド・ディカプリオを迎え、大切なひとり娘を守るために戦いに身を投じるかつて世を騒がせた革命家の姿をどのように描くのか期待に胸が高まります。
そこで今回は、この稀代の映画監督が築き上げてきた作品世界を、デビュー作から時系列で振り返ってみたいと思います。
映画ファン垂涎の最新作は間もなく公開!
『ハードエイト』(1996年)
出演:フィリップ・ベイカー・ホール、ジョン・C・ライリー、グウィネス・パルトロー ほか
若干26歳のポール・トーマス・アンダーソンが放ったデビュー作。
母を亡くした青年ジョンは葬儀代を稼ぐためにラスベガスを訪れますが、うまくはいかずジリ貧状態に。そんなジョンの前に初老の賭博師シドニーが現われ、カジノで勝つ方法を手ほどきし、ジョンは窮地を救われます。それから数年後、プロのギャンブラーに成長したジョンは久しぶりにシドニーと再会しますが……。
人間関係の微妙な距離感の描き方や、人間洞察の深さなど、後の作品群に通じる監督の眼差しが印象的です。
『ブギーナイツ』(1997年)
出演:マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア ほか
若いポルノ俳優の栄光と転落を軸に1970年代後半のポルノ産業の光と影を描いた辛辣な人間ドラマ。
17歳の青年エディは、その巨大な男性自身からポルノ映画監督にスカウトされます。さまざまな人間模様が展開されるポルノ業界で、エディは次々と主演作をヒットさせ、またたく間にスーパー・ヒーローとなりますが……。
アメリカンドリームの裏側にある虚無と欲望を鋭く描写し、アカデミー賞では3部門でノミネートされ監督の名声を決定づけました。
『マグノリア』(1999年)
出演:ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、メリンダ・ディロン ほか
ロサンゼルスを舞台に、一日の間に起こる様々なの人生の物語を複雑に絡み合わせて描いた、3時間の大作群像劇。
死期の近い老TVプロデューサー、その妻と看護人、彼と確執のある息子、ガンを宣告された人気司会者、彼に恨みを持つ娘、娘に恋する警官、クイズ番組の天才少年、過去の栄光にすがる元天才少年など、様々な立場の人物たちが、偶然と必然によって結ばれていきます。
偶然の一致や運命的な出会いをテーマに、現代アメリカ社会に生きる人々の孤独と救済を描き、ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞しました。
『パンチドランク・ラブ』(2002年)
出演:アダム・サンドラー、エミリー・ワトソン、ルイス・ガスマン ほか
これまでの群像劇から一転、内気な青年の恋愛を描いたロマンティック・コメディ。
7人の姉に囲まれて育った内向的なバリー・イーガンは、初めて自分を好きになってくれる女性と出会い……。
シンプルなラブストーリーでありながら、孤独な男性の内面を丁寧に描写。愛によって人生が変わる瞬間の美しさを捉え、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しました。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケヴィン・J・オコナー ほか
20世紀初頭のアメリカを舞台に、石油を掘り当ててアメリカンドリームを果たした男の成功と破滅のの人生模様を描く一大叙事詩。
山師の男ダニエル・プレインヴューは、孤児を自分の息子H.W.として連れ歩きながら一攫千金を夢見ています。そんな彼は、ある日、ポールという青年から自分の故郷の土地に油田があるはずだという情報を手に入れ、西部の町リトル・ボストンへと向かいますが……。
主演のダニエル・デイ=ルイスは本作でアカデミー主演男優賞を受賞しました。
『ザ・マスター』(2012年)
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス ほか
新興宗教を題材に、迷える復員兵とカリスマ教祖の複雑に絡み合う関係性を描いた人間ドラマ。
第二次大戦終結後、帰還兵のフレディはアルコール依存から抜け出せず、トラブルを繰り返す日々を送っていました。ある日、酒に酔ったフレディは港に停泊中の船にこっそりと乗り込みます。あっけなく船員に見つかった彼が連れていかれたのは、“マスター”と呼ばれる男、ランカスター・ドッドの前で……。
ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンという二人の名優の息詰まるような演技の応酬が圧巻で、ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞を受賞しました。
『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)
出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン ほか
アメリカの伝説的作家トマス・ピンチョンの探偵小説を映画化した、異色のサイケデリック・ノワール。
ヒッピー・ムーブメントが勢いを失いつつある1970年代のロサンジェルス。ヒッピーのなれの果てのともいえる私立探偵ドックは、元カノから頼まれて、普通なら関わりたくない案件の調査に乗り出すのですが……。
60年代の理想が失われた70年代アメリカの憂鬱と混乱を、監督らしい長回しのカメラワークと、時代の空気感を見事に再現した美術・衣装で印象的に描きます。
『ファントム・スレッド』(2017年)
出演:ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル、ヴィッキー・クリープス ほか
1950年代ロンドンのファッション界を舞台に、天才的な仕立て屋と彼に見出された若い娘の関係性を描いた愛憎劇。
高級婦人ファッション界の中心に天才として君臨する仕立て屋レイノルズ・ウッドコックは、ある日、運命的に若いウェイトレスのアルマと出会います。彼女を自らの新しいミューズとした彼は多くのインスピレーションを得ることになるのですが、その一方で……。
愛とは何か、創造とは何かを問いかけながら、1950年代の豪華絢爛な衣装・美術が、退廃的な美しさを演出する、大人のためのダークな恋愛映画です。
『リコリス・ピザ』(2021年)
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン ほか
年上の女性に恋をした青年のフレッシュで、それでいてままならない恋愛模様を描いた青春物語。
1973年、ハリウッド近郊の街サンフェルナンド・バレー。俳優としても活動する男子高校生ゲイリー・ヴァレンタインは、ある日、25歳の女性アラナと出会います。彼女に心奪われたゲイリーはすぐに猛アタックを開始するのですが……。
70年代アメリカの古き良き時代への郷愁も込めながら、青春への讃歌に満ちた本作は、アカデミー賞では作品賞など3部門でノミネートされました。
ざっくりですが、鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督のフィルモグラフィーを振り返ってみました。こうして並べてみると、監督らしい人間洞察の深さを感じながら、その多様な視点の置き方に驚かされます。最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』ではどのような視点で観客を驚かせてくれるのか。楽しみです。