今年最大のダークホース映画?『ラスト・ブレス』
9月26日(金)より公開の『ラスト・ブレス』は実際に起こった事件をベースにしたサバイバル・スリラーだが、実話作品ならではの地味シブな印象に騙されてはいけない。観ていて身体が硬直するほど恐ろしく、しかし奇跡的な結末がじんわりとした感動を呼び起こす傑作だ。
辛口で知られる某レビューサイトで観客スコア91%を叩き出しているのも納得の“めっけもん”映画な本作。前情報なしで観た際の衝撃度はすさまじいが、その面白さを“観れば分かる”で済ませるわけにもいかないので、この2025年最大のダークホース映画の見どころをザックリ紹介してみよう。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
豪華キャストと「これは実話である」の重み
本作はまず、冒頭からリアルな潜水映像と事実を淡々と映し、「これは実話である」というテロップで観客に“準備”させる。たった数分間のシークエンスだが、これが意外なほど効いていて、序盤のドラマ部分にもそこはかとない緊張感をもたらす。
そのパートを担うのが、『ドリームランド』(2019年)でマーゴット・ロビーと堂々共演したフィン・コール。彼は若手潜水士のクリスを演じているのだが、同棲している恋人と“自宅のリフォーム計画”を話し合うあたり、どうしても何らかのフラグなのでは……と勘ぐってしまう。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
そんな導入からの序盤シークエンスでは、潜水士たちの精神的支柱でありムードメーカーでもあるダンカンの軽口に救われる。演じるウディ・ハレルソンのキャリアは言わずもがな、その存在感は過酷な職業を耐え抜いてきた人物らしい重厚さと、プレッシャーを跳ね除ける飄々としたバイブスを兼ね備えている。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
社交的な2人とは対象的に、ベタベタした交流を好まないムッツリ生真面目なデイヴを演じるのが、MCUの『シャン・チー』(2021年)で知られるシム・リウ。“命がけの仕事”をもっとも体現しているキャラクターであり、その挙動は中盤以降の物語の伏線にもなっているので要注目だ。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
そんな潜水士たちをサポートするクルーの中にもベテラン俳優を起用していて、とくに船長アンドレを演じるクリフ・カーティス(『トレーニング デイ』『コラテラル・ダメージ』ほか)は中盤からクライマックスにかけてエモい熱演を見せてくれる。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
観客の緊張感を高める飽和潜水士の“リアル”な描写
飽和潜水士たちは仕事に入る前に数日間、加圧室で体を慣らす。完全フィクション作品ならば豪快に端折ってしまいそうなくだりだが、ここを丁寧に描くことで、早い段階から胸のあたりがギュッと苦しくなるような閉塞感を観客に植えつけるのだ。まるで分厚いコンテナに監禁されているかのような加圧室の描写は、閉所恐怖症気味の人は要注意なレベルである。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
こうして私たち観客は上映開始から20分も経たないうちに、じっとりと脂汗を感じ、まんまとスクリーンを凝視してしまう。例えるならば宇宙船、『エイリアン』(1979年)のノストロモ号のような“いきなり何かが起こりそう”な緊張感の醸成は、この時点で大成功。ときおり防犯カメラのような映像が挿し込まれるのだが、“撮影用のカメラすらキャストと一緒に入れない”ほどの狭さに気づくと、さらに閉塞感が増す。
加圧室=本番前の緊張感、狭小シェアルームのような生活感、クルー同士の信頼関係――肉体労働の現場っぽくもあり、スポーツ選手のロッカールームっぽくもあり、しかし同時に横隔膜が圧迫されるような感覚にも襲われ、なんだか思考も鈍ってくるような、“前フリ”として100点満点の導入シークエンス。地味な絵面とは裏腹な重苦しい迫力に、すっかり心を掴まれるだろう。
『ラスト・ブレス』©LB 2023 Limited
『ラスト・ブレス』
潜水支援船のタロス号が北海でガス・パイプラインの補修を行うため、スコットランドのアバディーン港から出航した。ところがベテランのダンカン(ウディ・ハレルソン)、プロ意識の強いデイヴ(シム・リウ)、若手のクリス(フィン・コール)という3人の飽和潜水士が、水深91メートルの海底で作業を行っている最中、タロス号のコンピュータ・システムが異常をきたす非常事態が発生。制御不能となったタロス号が荒波に流されたことで、命綱が切れたクリスは深海に投げ出されてしまう。クリスの潜水服に装備された緊急ボンベの酸素は、わずか10分しかもたない。海底の潜水ベルにとどまったダンカンとデイヴ、タロス号の乗組員はあらゆる手を尽くしてクリスの救助を試みるが、それはあまりにも絶望的な時間との闘いだった……。
出演:ウディ・ハレルソン、シム・リウ、フィン・コール、クリフ・カーティス
監督:アレックス・パーキンソン 原作:ドキュメンタリー『ラスト・ブレス』(メットフィルム)
脚本:ミッチェル・ラフォーチュン、アレックス・パーキンソン&デヴィッド・ブルックス
| 制作年: | 2025 |
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2025年9月26日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー