「イッチー&スクラッチーみたいな死に方を」エグいのに思わず笑顔『THE MONKEY/ザ・モンキー』パーキンス監督インタビュー
『ザ・モンキー』パーキンス監督が語る“気分を害さない”バッドテイスト
映画スタジオ〈NEON〉配給作品の興収成績を塗り替えた記録的ヒット作『ロングレッグス』のオズグッド・パーキンス監督の最新作『THE MONKEY/ザ・モンキー』が、9月19日(金)より全国公開。原作は巨匠スティーヴン・キングの短編「猿とシンバル」、製作を務めるのはホラー界のヒット請負人ジェームズ・ワンという、控えめに言っても鉄壁の布陣だ。
『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
ニコラス・ケイジの怪演も記憶に新しいバイオレントなサイコスリラー『ロングレッグス』から一転、『ザ・モンキー』はディザスター系スプラッター、あるいはエグい死に様のショーケースのような、ブラックコメディとして観ることもできるギリギリを攻めた仕上がり。そのうえグロいホラーが苦手でもなぜかスカッと楽しめてしまうという、パーキンス監督の幅広い手腕が発揮された作品でもある。
ヒッチコック監督作『サイコ』(1960年)のノーマン・ベイツ役で知られるアンソニー・パーキンス(1932-1992)を父に持つパーキンス監督。キングらしい鈍器のような恐怖と発狂寸前の不条理をベースに自身のパーソナリティや経験でみっちり肉付けしたという本作について、改変点の意図や名作へのオマージュなどを語ってくれた。
オズグッド・パーキンス監督『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「キングの世界に入ったときに感じる“何か”を映画にした」
――原作であるスティーヴン・キングの短編は、オファーを受けた時点で読まれていましたか?
いろんなものを読んでいるから、多分どこかで読んだだろうなという感覚しかなくて。記憶が定かじゃなかったんだけど、この企画に声をかけられて改めて読んだという経緯だね。
「猿とシンバル」収録 スティーヴン・キング短編傑作全集2(サンケイ文庫):編集部私物
――本作に登場する“おもちゃの猿”が叩くシンバルを太鼓に変えたのは権利上の問題だそうですが、他にも主人公ハルの家族構成など、原作からの改変点がいくつかあります。登場人物の死に方の変更や、原作には登場しないキャラクターなどは、どのように作り上げたものですか?
どこを起点に作っているか、という話になるんだけれど、原作のストーリーラインを参考にしたというよりも、あくまでコンセプトはこれ、という程度なんだ。そういう考えだったからこそ制作サイドも僕に声をかけたんじゃないかなと思っていて。なぜなら企画の意図としては、よくある“ジェネリック”ではないものを作るということだったから。
僕自身が原作小説から感じ取った何かをパーソナライズしたい――要はジェネリックじゃないものを作る唯一の方法は、この物語を自分個人のものにするしかなかった。その方向性のなかで一つ意識したのは、自分がキングの小説なりストーリーを読むときにどう感じるのか? ということを注入しようと。
『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
だから色んな感情が沸き起こってくるし、そこにはノスタルジー的なものも含まれる。原作小説と一致するのは子どもたちがおもちゃの猿を見つけるところくらいで、あとは自分がキングの物語を読むときに感じるもの、自分はどう彼の作品を受け取るのか、ということを映画にしたような感覚だね。
キングは色んなことをテーマにしていて、幼少期のことを数多く書いているし、家族や父親との問題などのテーマを書くことも多い。今回もそれと同じで、原作のテーマを一つのガイドラインにしながらも、僕がキングの世界に入ったときに感じられる“何か”を映し出しているつもりだよ。
『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
「どんな芸術形態よりも〈夢〉に近いのが映画」
――ハルは父親として苦悩し、双子の兄弟であるビルは亡き母親に固執しています。とくに成長したハルの人物像と彼の息子ピーティーの関係には、監督ご自身の父親としての気持ちも強く乗せられているように感じました。それが結果的に、単なるホラー映画ではない不思議な空気感にもつながっているのではと感じたのですが、いかがでしょう?
これはヒッチコックやデヴィッド・リンチの作品からも分かることであり、彼ら自身もそう言ったであろうことなんだけれど、どんな芸術形態よりも〈夢〉に近いのが映画だと思っていて。そういうレンズでこの作品を観ると、描いていることは全部“自分”なんだ。彼らの状況もそこに登場するキャラクターも、すべて自分を反映したものであり、自分の欠片なんだよ。
『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
だから“父親不在の兄弟”というのは、僕自身のバイオグラフィーのようなものでもある。僕自身そういう悲劇を経ているわけなんだけど、双子の兄弟によって自分の中の両面性を描いたつもり。良い部分と、改善しなければならない悪い部分。それに加えて、自分の抱えている恐怖や執着、趣味趣向であったり死角(※見えていない部分)であったり、そういうものも描いている。自分の経験や人生をそのまま反映しているから、善人や悪人がいるわけでもなく、正常な人も狂った人もいないという世界なんだ。
『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
全てが自分に根ざしているので、そのぶん極端な作りに挑戦できる。要はスタート地点が違うということ。いかに狂った作品を作ろうかということから始めるのではなくて、いかに繊細に真実を語っていくか? というところから意識して映画作りを始めると、よりカートゥーンっぽいものを作る自由度が出てくるんだ。
オズグッド・パーキンス監督『THE MONKEY/ザ・モンキー』© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『THE MONKEY/ザ・モンキー』
双子の少年ハルとビル兄弟は父が遺した持ち物から、ぜんまい式のドラムを叩く猿のおもちゃを見つける。その頃から周囲で“不慮の事故死”が相次いで起こり始める、最初はシッターのアニーが、ほどなくして母親が亡くなった。ハルはふたりが死ぬ前にこの猿がドラムを叩いていたことに関連があるのではないかと気味悪がっておもちゃを切り刻んで捨てるが、気づくと元どおりとなって戻ってきた。
母の死後、兄弟を引き取ったチップ伯父さんが“普通じゃない狩りの事故”で死んだことで、兄弟は猿を枯れ井戸へと葬った――つもりだった。
それから25年の時が経ち、一度は結婚し息子をもうけたハルだが、猿が戻ると身近な誰かが死ぬと思い、家族とは距離を置きビルとも疎遠になっていた。しかしそれは起こる。今度はアイダ伯母さん“気味の悪い事故”で亡くなったのだ。遺品整理で伯母の家を訪れたハルは、あの猿が戻ってきたことを確信する。
監督・脚本:オズグッド・パーキンス
原作:スティーヴン・キング
製作:ジェームズ・ワン
出演:テオ・ジェームズ、タチアナ・マズラニー、クリスチャン・コンヴェリー、コリン・オブライエン、アダム・スコット、イライジャ・ウッド
| 制作年: | 2025 |
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2025年9月19日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー