「子どもたちの明日ために」闘うドキュメンタリー
ここ数年で頻繁に耳にするようになった「PFAS汚染」という言葉。”PFAS”とは有機フッ素化合物の総称で、水や油をはじく特性をいかし焦げ付かないフライパンや防水スプレー、半導体、 泡消火剤などあらゆる生活用品に使われてきた。 PFASの中でも、PFOSやPFOAなどは発がん性など人体への有害性が指摘され、世界では毒性を重く見て規制が進んでいる。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
身近な化学物質でありながら、それとも身近すぎるからなのか、有毒であると知ってもその危機感は強く迫ってこない。水道水は日常生活に欠かせないものであり、完全に避けることは難しいからなおさらだ(※一部の浄水カートリッジで多くを除去することはできる)。
海外では日本に先んじて対策がとられているが、国内にもPFAS問題に声をあげている人々がいる。ここではドキュメンタリー映画『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』の全国公開(8月16日[金]より)にあわせ、PFAS汚染とその背景、国内の状況や対策、今後の課題について、ざっくりと振り返っておきたい。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
“永遠の化学物質”PFASと、日本の水道水における検出状況
PFAS(有機フッ素化合物)は撥水性・耐熱性に優れ、消火剤や半導体製造、食品包装など多岐にわたる用途で使用されてきた。環境中で分解されにくく、人体への蓄積による健康リスクが指摘されていることから、「永遠の化学物質」とも呼ばれている。
環境省によると、2024年度時点で全国の水道事業者の検査結果では、PFOS・PFOAの暫定目標値(50ng/L)を超過する事業者はゼロとなり、給水人口の98.2%が安全確認済みとされている。しかし、過去には多摩市などで高濃度のPFASが検出され、住民の不安を招いた事例もある。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
汚染源と調査の壁、不可欠な素材と環境負荷
米軍基地では、航空燃料火災対策としてPFASを含む泡消火剤が長年使用されてきた。日本国内の複数の基地では、周辺の井戸水や河川から高濃度のPFASが検出されており、基地由来の汚染が疑われている。しかし、日米地位協定により基地内調査には米軍の許可が必要で、つまり汚染源の特定には制度的な障壁がある。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
また、半導体製造においてもPFASは不可欠な材料であり、排水による環境負荷が問題視されてきた。いくつかの国内の工場ではPFAS濃度の上昇も確認され、排水口から暫定指針値の2.6倍ものPFASが検出されたりと、国策事業としての環境責任が問われている。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
欧米の先進的対応と代替技術の開発
欧州では2023年に約1万種類のPFASを対象とする包括的な制限提案が公表され、2026年以降の全面規制が検討されている。米国でもEPAが「PFAS戦略ロードマップ」を策定し、水道水や食品包装などへの規制を強化。企業レベルでもPFASフリーへの移行が進んでいる。
日本ではPFOS・PFOA・PFHxSなど一部のPFASが化審法により第一種特定化学物質に指定されているが規制対象は限定的であり、包括的な対応が今後の課題だ。
一方で、持続可能な素材への転換も進んでいる。食品包装では王子ホールディングスの非フッ素耐油紙「オハジキ」、繊維ではAMPHICOの撥水素材「AMPHITEX」、工業材料では三井化学の非フッ素樹脂「TPX®(ポリメチルペンテン)」などなど。半導体分野ではDICのPFASフリー界面活性剤「MEGAFACE」が開発されており、環境負荷を抑えつつ機能を維持する素材の実用化が進んでいる。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』©2025 GODOM 沖縄
今後の課題~科学的根拠と透明性ある対応を
PFAS汚染は、環境・健康・産業・外交が交差する複雑な問題だ。とはいえ、科学的根拠に基づく規制強化と、透明性ある調査体制、そして持続可能な代替技術の普及が不可欠であることは間違いない。なによりも、この問題に目と耳をすませ、次代の子どもたちに安全な水を提供できるようにすることが、私たちの使命ではないだろうか。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』は8月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』
すべては2016年に沖縄県が開いた会見から始まった。「県民45万人に供給する水道の水に化学物質PFASが含まれていた」――との発表を受けて、 多くの人々の反応は「PFASって何?」というもの。 すぐに関心が高まったわけではなかった。 やがて立ち上がる女性たちも当初は他人事だった。しかし、米国ではすでに、がん、低体重出生など、健康影響が確認されていた。その深刻さに女性たちは気づいていく。
「他のお母さんたちにも知らせなきゃ」と、彼女たちは街頭で涙ながらに訴え、調査や浄化を求める。しかし、沖縄では汚染発覚から9年経ってなお、汚染源の特定すら出来ない。なぜか!? 汚染源とみられる基地への立ち入り調査を米軍が拒み続けるから。それでも、子どもたちのために諦めるわけにはいかないと徒手空拳の闘いを続ける女性たちは国連を目指す。
一方、米国や欧州ではPFASの毒性を重くみて規制の波が押し寄せる。その波を起こしたのは女性たちだった。こうした国の人々は、彼女たちの声に耳を傾け、現実を変えてきた。日本人は何をしてきたか?
監督:平良いずみ
プロデューサー:千葉聡史 山里孫存
| 制作年: | 2025 |
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2025年8月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開