人間の血を吸い不老不死、蒼白い肌、鋭い牙、赤い目、そして優雅で高貴な存在……。「吸血鬼」の恐ろしくも美しいイメージは多くの人々を魅了し、これまでに様々な創作物が作られてきました。
つい最近だけに絞っても、ドイツの巨匠F・W・ムルナウ監督の傑作をロバート・エガース監督がリメイクした王道のゴシックホラー『ノスフェラトゥ』、吉沢亮演じる450歳のバンパイアが「18歳童貞の血」を求めて童貞喪失阻止作戦を展開するというコメディタッチな『ババンババンバンバンパイア』、そしてアニメでは血を吸うのが下手な美少女吸血鬼が主人公の『ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん』が2025年10月より放送開始予定など、多彩なパターンと取りつつも、「吸血鬼」が画面に登場しない年はないと言ってもいいかもしれません。
そこで、今回は「吸血鬼」を語るうえで、ぜひともチェックしておいてほしい、どちらかというと王道寄りの映画5作品を紹介します。
どうして人は「吸血鬼」に惹かれるのか
『ドラキュラ』
公開年:1992年
監督:フランシス・フォード・コッポラ
主演:ゲイリー・オールドマン、ウィノナ・ライダー、アンソニー・ホプキンス ほか
【あらすじ】
15世紀のルーマニア、ワラキアの王ドラキュラは、愛する妻エリザベータを失った絶望から神を呪い、不死の存在となる。400年後、弁護士ジョナサン・ハーカーの婚約者ミナの中に、亡き妻の面影を見出したドラキュラは、彼女を永遠の愛人にしようと執念を燃やす……。
【おすすめポイント】
巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督が、ブラム・ストーカーの原作小説により忠実に基づいて映像化したゴシックホラーの傑作。ゲイリー・オールドマンの圧倒的な演技力により、ドラキュラという存在が単なる怪物ではなく、愛に狂った悲劇的な男として描かれています。第65回アカデミー賞では衣装デザイン賞、音響効果編集賞、メイクアップ賞を受賞。グロテスクと強烈なエロスから匂い立つ芸術的耽美は吸血鬼映画の王道といえる迫力を持っています。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』
公開年:1994年
監督:ニール・ジョーダン
主演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット、スティーヴン・レイ ほか
【あらすじ】
現代のサンフランシスコで、若者からインタビューを受ける黒髪の青年。吸血鬼として200年という驚くべき年月を生きてきた彼が初めに語るのは、愛する妻と娘を亡くした18世紀末に彼の運命を大きく変えた美貌の吸血鬼との出会いで――。
【おすすめポイント】
1976年に出版されたアン・ライスの小説を映像化した本作。吸血鬼を恐怖の対象ではなく、永遠の時を生きる美しく悲しい存在として描いた作品としても魅力的ですが、トム・クルーズ、ブラッド・ピット、クリスチャン・スレーター、アントニオ・バンデラス、キルスティン・ダンストといった、今では多分実現不可能な錚々たるキャストの共演も見逃せません。
『吸血鬼ハンターD』
公開年:1985年
原作:菊地秀行
監督:芦田豊雄
声の出演:塩沢兼人、富沢美智江、戸田恵子 ほか
【あらすじ】
最終戦争後の地球は“貴族”と称する吸血鬼達と彼らが生み出した怪物に支配され、人類は彼らの「食料源=家畜」として隷属させられていた。そのような状況の中、対怪物のプロフェッショナルとして“ハンター”達が台頭する。中でも、ずば抜けた力と技で“貴族”を狩る者たちは、「吸血鬼ハンター」と呼ばれていた。そんな吸血鬼ハンターの“D”はある日、“貴族”にさらわれた娘の救出を依頼される――。
【おすすめポイント】
日本を代表する人気作家・菊地秀行の人気小説を原作とする本作。ゴシックホラーとウェスタン、ホラーアクション、SFファンタジーを融合させた独自の世界観は唯一無二であり、多くの後発作品に影響を与えました。日本の吸血鬼アニメを語るうえでは必修科目と言えるでしょう。小難しいことは置いておいて、とにかく主人公“D”のビジュアル、設定が塩沢兼人の渋い声と相まって、とにかくカッコいい。
『ぼくのエリ 200歳の少女』
公開年:2008年
監督:トーマス・アルフレッドソン
主演:カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション、ペール・ラグナー ほか
【あらすじ】
ストックホルム郊外の小さな雪深い町。いじめに苦しむ繊細で内向的な12歳の少年オスカーは、隣に引っ越してきた同じ年頃の少女エリと出会う。やがて二人の間には純粋な友情と愛情が芽生えていく。ただ、時を同じくして、街では不審な事件が多発。実はエリには恐ろしい秘密があり……。
【おすすめポイント】
孤独な少年の切なくも美しい初恋と、ヴァンパイアの恐怖や哀しみを繊細に描いたスウェーデン発の吸血鬼映画。少年と少女が辿る哀しい運命の行方を、雪景色の美しい白と暴力的で鮮烈な血の赤という対照的なイメージで描きます。カンヌ国際映画祭をはじめ多くの映画祭で絶賛され、ハリウッドでもリメイクされるなど、世界的に高い評価を受けた北欧発の名作です。
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
公開年:2013年
監督:ジム・ジャームッシュ
主演:ティルダ・スウィントン、トム・ヒドルストン、ミア・ワシコウスカ ほか
【あらすじ】
デトロイトでカリスマ的な人気を誇る謎のミュージシャン、アダムの正体は永遠の命を生きる吸血鬼。ただ、人を襲うようなことはなく、静かに隠遁税活を楽しんでいる。そこへ、モロッコに住む妻のイヴがやってくる。ともに吸血鬼として何世紀も愛し合ってきた二人は、久しぶりに親密な時間を過ごすのだが、イヴの妹エヴァが乱入してきたことで、平穏だった日常に波乱が起こり――。
【おすすめポイント】
インディ映画界の鬼才ジム・ジャームッシュ監督が何世紀も生き続けるエレガントなヴァンパイアを主人公に描く異色のラブ・ストーリー。派手なアクションや恐怖演出は一切なく、代わりに長い時を生きる夫婦の倦怠感と愛情を静謐に描きます。また、現代文明に対する批判的な視点で、長命な吸血鬼の目から見た人間社会の愚かさと美しさが対比的に描かれている点も注目です。
「吸血鬼」を語るうえでぜひチェックしてみてほしい、王道寄りの吸血鬼映画5作品でした。奇しくもこの記事の公開日の翌日である8月7日は、史上名高い連続殺人者の一人であり、吸血鬼伝説のモデルともなった「血の伯爵夫人」ことエリザベート・バートリ(1560年-1614年)の誕生日。永遠の命、愛と孤独、美と恐怖……。この機会に吸血鬼映画の魅力を再発見してみるのはいかがでしょうか?