スパイがバカで何が悪い!冷戦喜劇『スパイ・ライク・アス』
「スパイ映画」と聞いて、まずジェームズ・ボンドを思い浮かべる映画ファンは多いだろう。だが、そんな人にこそ(自己責任で)観てほしいのが1985年制作の『スパイ・ライク・アス』だ。
『スパイ・ライク・アス』© Warner Bros. Entertainment Inc.
本作は冷戦時代まっ只中に生まれたスパイ・コメディ。主演は『ゴーストバスターズ』のダン・エイクロイドと『サボテン・ブラザース』のチェヴィー・チェイスという、人気コント番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身の2人。彼らが政府の使いっ走りとして、とある極秘任務に“巻き込まれてしまう”ところから物語は始まる。
「スパイとしての訓練? そこそこ」「知性? たぶん足りてない」……それでも彼らは任務に出る。なぜ? じつは本物のスパイの身代わりとして使い捨てするためだったのだ! という雑な陰謀ネタも含めて、そのバカバカしさこそが本作の魅力になっている。
異様に豪華なカメオ陣に注目! 主題歌はポール・マッカトニー
本作の舞台はソ連、時は冷戦。極秘任務は核戦争に関するもの。コメディとしてはヘビーすぎるテーマを、あえておちゃらけで包み込む。ミサイル基地でのドタバタ、ロシア兵との奇妙な交流、そして最終的には核戦争寸前に陥り……という展開は、いま観るとギリギリ(アウト?)なのだが、演出のバカバカしさにニヤリとしつつ思わず虚空を仰いでしまう。
『スパイ・ライク・アス』© Warner Bros. Entertainment Inc.
監督を務めたのは『アニマル・ハウス』や『ブルース・ブラザース』、『狼男アメリカン』で知られ、主演2人とは度々タッグを組んできた名匠ジョン・ランディス。『星の王子 ニューヨークへ行く 』を含む彼の代表作と同じく、じつは高度なネタ回しとテンポの良さで物語を転がしていく方程式は本作でも発揮されている。
しかも主題歌はポール・マッカートニーが歌う「Spies Like Us」。なぜマッカートニーがこの映画に楽曲を提供したのかは謎だが、当時のノリとして「有名ミュージシャンが関わっていれば勢いで押せる」といったムードもあったのかもしれない。ちなみに本作は、ランディス監督の嗜好が発揮されたカメオ出演も超豪華。テリー・ギリアム、レイ・ハリーハウゼン、サム・ライミ、ジョエル・コーエン、さらにはB・B・キングまで登場する。
Spies Like Us(1985) The list of cameos in this is…incredible.
Bob Hope
BB King
Sam Raimi
Joel Coen
Frank Oz
Ray Harryhausen
Terry Gilliam
Larry Cohen pic.twitter.com/8Q30ED8WH8— Scarver Shawcross (@ScarverShawcro1) February 17, 2023
本作は公開当時、批評家の評価は散々だった。とはいえ80年代アメリカのバカバカしい勢いと過剰な自意識を笑い飛ばす資料としても貴重だし、いま観てもしっかり笑えるというのは地味にスゴい。良くも悪くも無責任な空気感が生んだ時代の徒花という側面はあるものの、コメディ映画好きならば一度は観ておきたい快作だ。
『スパイ・ライク・アス』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年7~8月放送