90年代アクション映画に新たな潮流!
「アクション映画」が、まだ“筋肉と復讐”で世界を席巻していた1990年代。アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンがスクリーンを支配する中、突如として現れたのが“巨体で無表情、合気道の達人、そしてポニーテール”という武器を持つ男が表れた。そう、流暢な関西弁を操るスティーヴン・セガールだ。
そんなセガールの映画主演2作目となる『ハード・トゥ・キル』(1990年)は、まさに“セガール神話”の礎を築いた作品と言えるだろう。
『ハード・トゥ・キル』© Warner Bros. Entertainment Inc.
批評家「昏睡状態の演技が一番自然だった」
物語は、米ロス市警の刑事メイソン・ストーム(セガール)が、汚職政治家とマフィアの密談を偶然録画してしまうところから始まる。その結果メイソンは家族を襲撃され、自身も銃弾を浴びて昏睡状態に。しかし7年後、奇跡的に目覚めた彼は失ったものすべての復讐を誓い、再び立ち上がる。タイトル通り「Hard to Kill(殺すのが難しい)」な男の逆襲が幕を開けるのだが……。
『ハード・トゥ・キル』© Warner Bros. Entertainment Inc.
この作品の最大の見どころは、デビュー作『刑事ニコ/法の死角』(1988年)でお披露目した合気道アクションが、ついに確立されたところにある。派手な銃撃戦や爆発がウリだった当時のアクションとは一線を画す、素手による関節技や投げ技には筋肉だけではない説得力があった。病院から車椅子で逃走するシーンや竹刀を使ったリハビリ訓練などツッコミどころはあるものの、セガールのアクションはいま観てもキレを感じさせる。
『ハード・トゥ・キル』© Warner Bros. Entertainment Inc.
ちなみに、当時セガールの妻であったケリー・ルブロックがヒロイン役で共演。公私混同かと思いきや、彼女の存在が復讐一辺倒になりがちな物語に一抹の人間味を与えている。とはいえセガール自身の演技力はやはり微妙で、その“無表情演技”は一部の批評家から「昏睡状態の演技が一番自然だった」と揶揄されるほどであった……。
『ハード・トゥ・キル』© Warner Bros. Entertainment Inc.
並み居るオスカー候補作を抑えて全米トップの大ヒット!
そんな本作だが公開されるや全米初登場1位を記録し、最終的に全世界で約7500万ドルを稼ぎ出すヒット作に。公開初週には『ドライビング Miss デイジー』や『7月4日に生まれて』といったアカデミー賞候補作を抑えてトップに立ち、ハリウッド関係者を驚かせたという。ただし今となっては多くの批評サイトや評論家、観客から芳しくない評価を受けている。
『ハード・トゥ・キル』© Warner Bros. Entertainment Inc.
とはいえ、そのギャップこそが本作の面白みの根源であり、ある意味で90年代B級アクション映画の象徴とも言えるだろう。ストーリーは単純明快、演技は硬直気味、演出はやや大雑把――だが、それがイイ。セガールの“無敵感”と“説教臭さ”が大盤振る舞いされた本作は、今では決して観ることができないであろう不思議な魅力を放っている。
『ハード・トゥ・キル』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年7月放送